【書評】「逆転勝利を呼ぶ弁護」
弁護士業務は、法令や裁判例を基盤として成り立つものです。案件を受任した際には、当該案件について先例となる裁判例をリサーチすることになります。
つい、裁判例は所与のものとして、その判決を獲得するために当事者や代理人がどのよう工夫や努力をしたのかという点は忘れてしまいがちです。
原和良「逆転勝利を呼ぶ弁護」(学陽書房)では、困難で多くの弁護士が断るような案件で素晴らしい成果を上げられた自身の経験をまとめられています。
本書で取り上げられているケースは、ちかん冤罪事件、別荘管理契約(南箱根ダイヤランド事件)、マンション建替え決議無効確認請求事件などの7ケースです。
この種の本は、やたら事実の記載が多く冗長であったり、あるいは武勇伝として自慢気な記載がされていることが多いです。
しかし、本書にはそのようなマイナス要素はなく、事案の概要、法的な論点、判決の要旨、逆転のポイントを非常に端的にかつ分かりやすくまとめられており、すらすら読み進めていくことができます。
特に印象に残ったポイントとしては、以下です。
・法律や判例の知識ありきではなく、「目の前の依頼者は、救済されないとおかしい、と自分の中にある価値観や正義感が反応するかどうか」を考えるべき
・条文通りだと敗訴となるが、そこで前提とされる法の規律はその趣旨からして妥当なのか、あるいはその規律は当該案件で用いられたスキームを予定していたのかを検討すべき
・裁判例や他の事例との整合性を重視する裁判官を説得するために、理論一辺倒で攻めるのではなく、他の法体系に波及効が及ばないようにする工夫も重要
弁護士としての経験が積み重なってくると、「勝ち筋」「負け筋」の見極めはある程度できるようになります。ただ、安易に勝ち筋事件ばかり受けるのではなく、一見負け筋であっても、自分の中の正義感が反応しないか、どこかに勝てる見込みはないのかを真剣に考えてあえて受けるという姿勢の大事さを改めて教えてくれます。