若手弁護士の情報法ブログ

某都市圏で開業している若手弁護士が日々の業務やニュースで感じたこと、業務において役に立つ書籍の紹介等を記していきます。情報法・パーソナルデータ関係の投稿が多いです。

説明・アドバイスの仕方についての雑感

久しぶりのブログ更新です・・・(昨年のLegal AC以来)。

 

Twitterで相互フォローさせていただいているdtkさんとくまったさん、更には経文緯武さんのスペース(萌渋スペース)が、毎回盛況ですね。

前回5月30日(?)のスペースは、残念ながら所要のため参加ができなかったのですが、私のリクエストを拾ってくださり、しかもそれをブログにまとめていただいていました。

 

 

 

dtk1970.hatenablog.com

 

私のふとした思い付きを取り上げていただいただけでも恐縮なのに、ブログでこのように緻密・体系的に整理までしていただき、大変嬉しいです!

 

法務の立場でのご経験や知見を踏まえた濃密な内容で、何度も読んで参考にしたい内容です。弁護士にとって必読の記事といえるでしょう!

 

特に、以下のご指摘には、目から鱗が落ちたり、耳が痛くドキッとさせられたりしました。

 

 

「外部の弁護士さんが返すべき助言は、依頼者にとって、次の行動につなげやすいものであることが望ましいはず」

「依頼前に想定されている『シナリオ』を把握する・・・そのような『サプライズ』の可能性があるのであれば、早めに示唆する方が良いのではないかと考える」

「可能であれば、法律面からの『お薦め』も、根拠と共に示した方が良いように思う」

「リスクは、ある・なしに加えて程度も示すべき」

「留保は、読みようによっては、依頼者に向かって『あなたを信用していない』とも読めてしまう。従って、そのつけ方には慎重になる方が良いだろうし、ここは事務所の巧拙が出るところだろうと感じる」

「結局どうなったか。正味どうなったかも把握しておくと、把握した時点で適時に助言することで、更なるトラブルの火種を消すことにつながるかもしれない」

 

 

私自身、依頼者(事業者を前提)からの相談に対する回答やアドバイスについて、何か体系だったノウハウや豊富な経験があるわけではないのですが、dtkさんの記事を踏まえ、改めて大事だと感じたことを書いてみようと思います(私ができているという意味ではなく、大いなる自戒を込めています)。

 

依頼の趣旨を十分に理解する

ここはdtkさんも「問いを理解する」と書かれていることなのですが、基本中の基本でありながら決して簡単ではないと感じています(むしろ難しい)。

前提として理解しなければならないのは、事実関係や問題点、尋ねたいことを文章で正確に伝えるということは、かなりのハードルがあるということでしょう。特に、日常的に大量の文章を読んだり書いたりする人でない場合、ご自身の中での聞きたいこととと、実際の文章の表現にずれが生じることはよくあることです。

メールで届いた質問の文章が何度読んでも理解ができず、電話したところ、即座に理解ができたという経験は何度もあります。

「相談内容を正確に理解できているか」という疑いは、常に持っておくことが必要なのでしょうね。

 

リスクの記載の仕方

契約書のレビューが典型的でしょうが、リスクをどの程度記載するかは常に悩ましい問題です。

私の場合、「リスク高:修正・削除が必須な条項」、「リスク中:できれば修正・削除が望ましい条項」、「リスク低:修正・削除の必要がないか乏しい」という形で、条項ごとのリスクの程度を一覧で分かるように工夫したりしています(すべての契約書レビューではなく、ある程度「重め」のレビューについてですが)。

ただ、ここでいうリスクが「高い」「低い」という判断根拠は何かということを突き詰めたら、私の主観にしかすぎないことにもなり、どのように評価するのかは常に悩むところではあります。

 

 

留保のつけ方

dtkさんの「留保は、読みようによっては、依頼者に向かって『あなたを信用していない』とも読めてしまう。従って、そのつけ方には慎重になる方が良いだろうし、ここは事務所の巧拙が出るところだろうと感じる」というご指摘は非常に耳が痛いところです・・・。

弁護士としては、どうしても「言い切り」を回避したいという心理があり、留保をつけてしまうのは避けられないのですが、どこまでそれを前面に出すかという点は常に悩むところですね。

私自身の工夫としては、アドバイス内容をメモやレポートの形で作成する際には、留保は本文部分ではなく、脚注や※をつけた箇所に記載して、文章の流れが阻害されないように意識はしています。ただ、この脚注や※という点も、あまりに分かりづらいと説明不十分ということになりかねないし、多用すると結局はdtkさんご指摘のように「あなたを信用していない」というメッセージを与えかねないところもあります・・・

また、文書(メールも含む)の形だとどうしても保守的な記載になってしまいがちなところではあるのですが、文書を送った後に電話あるいは面談をして、ニュアンスを分かりやすく伝える、という工夫もあり得るところかなと思います。

 

 

色々と書き出してみましたが、改めて説明・アドバイスの仕方は奥深く、難しいということを感じました。

私自身、よりよい方法について研鑽を積んでいきたいと思いますので、「こんな方法がよい」といった情報があれば是非教えていただければ嬉しいです。

 

 

法律時報「2021年学界回顧」で興味深かった文献

2021年法務系Advent Calendarのエントリー記事です。

法務系 Advent Calendar 2021 - Adventar

改めて、Kanekoさん、幹事をお引き受けいただきありがとうございます。

 

吉峯耕平先生(kyoshimine)さんからバトンを受け取りました(法務系LTの記事、大変興味深かったです)。

 

関西で弁護士業をしている若手弁といいます。今回でアドベントカレンダーへの参加は4回目となります。

過去のエントリーは以下のような記事を書いていました。

 

wakateben.hatenablog.com

 

wakateben.hatenablog.com

 

wakateben.hatenablog.com

 

 

日本評論社が発行している雑誌「法律時報」では、毎年12月号に「学界回顧」との特集を組んで、法学分野における主要な文献が紹介・解説されています。

2021年度の学界回顧での法分野は以下の通りです。

憲法

行政法

・租税法

・刑法

・刑事政策

民法(財産法/家族法

・環境法

会社法金融商品取引法

・商法総則商行為・保険・海商・航空法

・経済法

・消費者法

・知的財産法

・労働法

社会保障法

民事訴訟

刑事訴訟法

国際法

・国際私法

法社会学

法哲学

・法制史

 

研究者でもない自分にとってはここで解説されているテーマや概念については知らないことも多いのですが、テーマごとに多岐にわたる文献が紹介されており、ざっと眺めるだけでも大変面白いです。

今回は、この2021年学界回顧で取り上げられていた文献のうち、読んでみて特に参考になり面白かったものを紹介していきます(セレクションは全くの独断と偏見で、ジャンルも分野もバラバラであることはご容赦ください)。

 

 

憲法

音無知展「プライバシー権の再構成‐自己情報コントロール権から適正な自己情報の取扱いを受ける権利へ」(有斐閣

www.yuhikaku.co.jp

学界回顧では「この領域(ブログ記事執筆者注:プライバシー分野)で今期最も重要な業績」とまで評されています(10頁)。

著者の京都大学の法学博士論文に加筆修正を加えたものです。

 

タイトルにある通り、プライバシー権について通説とされている自己情報コントロール権を批判し、「適正な自己情報の取扱いを受ける権利」として構成することを内容としています。

4部構成となっており、第1章ではプライバシー権に関する従前の学説、第2章ではアメリカ法の状況を紹介し、第3章で自説の展開、終章で総括と残された課題を論じています。

難解なところもあり(これは私自身の知識不足な読解力の問題が大きいと思いますが・・・)、十分に理解できているかは自信がありませんが、憲法31条の適正手続保障の権利内容も参照しつつ、「自己決定」ではなく「適正な取扱い」に重心をおくという主張は大変刺激的で多くの示唆を得られました。

 

特に印象に残り、また賛同ができたところは次の点です。

 

個人情報保護法制のいわゆる過剰反応については、「自己決定又は本人同意が要請される領域は本来例外的又は周辺的な場面に止まるにもかかわらず、自己決定の理念が公的機関にとっての行為規範として力を持ち過ぎたのが一因ではなかろうか」とし、適正な取扱いを受ける権利と理解することで状況を改善できる可能性を示唆(205頁)

 

・国家による個人情報の取扱いが共同生活を送る上で不可欠又は不可避な営みであること等に鑑み、個人情報の取扱いを広く基本権の対象と捉える以上は、自己決定権型の権利を認めることにより各人の支配に委ねるのではなく、「適正な自己情報の取扱い」という適正な配慮を求める権利を個人に認めることを提案(240頁)

 

プライバシー権を適正な取扱いを受ける権利として構成することで、プライバシーに関する最高裁判例の多くが「みだりに」という規範を立てていることと整合するという指摘には大いにうなずきました。

憲法学界ではプライバシー権については自己情報コントロール権が通説という理解で、そこに疑問を抱いてはいなかったのですが、果敢に通説にチャレンジして別の角度からの再構成を試みるという姿勢に、改めて学問の醍醐味を感じました。

 

本書で扱っている権利は対国家を前提としてはいますが、近時は私人間でもプライバシー・個人情報の取扱いの重要性はますます増しており、また一方で同意の有無やその内容についても様々な議論がされていることを考えると、「適正な取扱い」という切り口で検討することで新たな発見や整理ができるのではないかという気がします。

 

この音無説が今後は憲法学会における通説になっていくのかもしれません・・・!

 

今後もプライバシー侵害の有無が激しく争われるような事案に接した場合、本書を定期的に参照することが増えそうです。

 

民法

伊藤栄寿「可分債権の準共有:当然分割原則の再検討」(上智法学論集 第64巻第3‣4号)

特に相続の場合等、可分債権は当然に分割されるという説が判例通説という前提で理解していました。普通預金債権については平成28年12月19日最決が、定期預金債権については平成29年4月6日最判が、いずれも当然分割を否定しました。しかし、これはあくまで預金債権に関してであり、通常の金銭債権であれば、なお当然分割説と考えていました。

 

しかし、本論稿は、可分債権の共同相続の場合に当然分割を認めたものとするリーディングケースである昭和29年最判の事案の特殊性(対象となる債権が預金債権ではなく不法行為に基づく損害賠償請求権であったこと、紛争当事者が債権者間ではなく債権者の一人と債務者であったこと)に着目し、伝統的通説が当然分割をとる実質的理由がこの事案では必ずしも問題視あるいは検討対象とはされていないことを説きます(188~189頁)。

そして、当然分割原則の理論的根拠について正当化が難しいとして、その理由として伝統的通説は、債権の帰属の問題と効果の問題を混合してるように思われる(準共有は財産帰属レベルの問題、多数当事者の債権関係は債権の効力レベルの問題)とし、債権が準共有されたとしても分割請求を認めることで当然分割と同様の結論は実現可能であるとします(196頁)。

 

金銭債権については預金債権だけが例外的に分割されずに遺産分割の対象となるが、それ以外の債権は各相続人に当然分割されるものと特に疑問も持たずに理解していました。しかし、本論稿を読んで、改めて通説とされるものでもそのリーディングケースとなる判例の事案や判断内容を緻密に分析検討し、常に批判的に考察をしていく姿勢の大事さを教えられました。

 

会社法金融商品取引法

杉光一成・三和圭二郎「知的財産に関する取締役の責任‐知的財産法、会社法そしてコーポレートガバナンス・コードとの関係」(NBL1190・18頁)

知的財産権の調査を懈怠したことにより企業に損害が生じた場合に、当該企業の取締役が賠償責任を負うかという問題提起をし、知的財産法と会社法善管注意義務を合わせて読むことで取締役の損害賠償責任が生じる可能性があることを論じています。

 

立法の沿革にまで遡り、過失推定規定のある特許法、意匠法、商標法に関して事業者に知的財産権の調査義務が存在しているとし、他社の知的財産権の存否及び侵害する可能性について事前に調査すべき義務が善管注意義務に含まれるとします。

そして、そのような責任を回避するための方策として、①知的財産に詳しい担当取締役を設ける、②知的財産部門を設置し、出願業務のみならず調査業務を所掌する、③社外の専門家の意見を聞くといった選択肢を提案します。

 

企業法務において知財を巡る紛争は不可避で、知財へのアンテナやリテラシー不足ゆえに企業が大きな損害を被った場合には取締役の責任問題に波及する事態は十分ありえそうで、そのような事態において問題を整理・検討する上で色々参考になりそうです。

 

本論稿が念頭に置いているのは過失推定規定のある特許法、意匠法、商標法です。過失推定規定がない著作権法に関しては、どのような規律となるのかは気になったところです。

 

【消費者法】

鈴木尉久「サルベージ条項に対する消費者契約法10条の適用」(甲南法務研究No17.55頁)

サルベージ条項*1とは、「本来であれば全部無効となるべき約款条項に、その効力を強行法規によって無効とされない範囲に限定する趣旨の文言を付記したもの」とされています。

 

消費者契約法改正により特定の条項が無効とされる範囲が広がりましたが、一方で事業者側としても様々な対策を講じるようになっており、サルベージ条項はまさに事業者側にとってのリスクヘッジの一環といえるでしょう。ただ、このようなサルベージ条項を簡単に認めると、不当条項規制が骨抜きになりかねないという問題があります。

 

本論稿は、このようなサルベージ条項の消費者契約法10条の不当条項該当性について検討しています。

サルベージ条項については、

①透明性の原則との抵触(サルベージ条項が利用された場合、消費者は契約から生じる権利義務について適切な情報を得ることができない)

②不当条項の事実上の通用(サルベージ条項が利用された場合、不当条項として全部無効の疑義がもたれる条項であっても、事業者は有用な部分が一部分でも存する可能性があるとの建前から利用し続けることが可能となる)

③適正な条項策定への動機付けの喪失(サルベージ条項が有効とされると、事業者は適正な内容での契約条項の策定へのインセンティブがそがれることになる)

④効力維持縮小解釈の強要(裁判所に対し、ぎりぎり無効とならない有利な契約条件を探し出す負担を課すとともに、消費者に対し無効の主張立証に成功しても最低限度の権利擁護で満足するべきことを要求する)

との問題点があると指摘ます(そのうち一の透明性の原則への停職が最大の問題点であるとします)。

 

そして、サルベージ条項のうち、「法律で許容される範囲内において」という趣旨の文言が付記された法律限度免責条項部分は、①消費者契約法10条前段について、透明性の原則に抵触しているため充足し、②後段については、契約の拘束力の正当性を失わせ、かつ、事業者に条項解釈についての不当な裁量を付与するので、信義則違反を認めうるとします。

 

サルベージ条項のどのような点が問題で不当なのか掘り下げて検討しており、サルベージ条項についての理解を深めることができました。企業側としては、リスクヘッジの観点からついサルベージ条項を用いてしまいがちなのですが、安易に使用することのリスクと怖さを感じました。

 

民事訴訟法】

堀清史「当事者の提出しない自由と私的自治‐いわゆる事案解明義務論検討のための準備的考察」(龍谷法学53-2 51頁)

https://mylibrary.ryukoku.ac.jp/iwjs0005opc/bdyview.do?bodyid=TD32136803&elmid=Body&fname=hou_53_02_003.pdf&loginflg=on&block_id=_363&once=true

 

民事訴訟では私的自治が根底にあるので、一方当事者の手元にある資料や情報について訴訟に提出するか否かはその当事者の自由とされるのが原則です。

しかし、例えば医療過誤訴訟のようなの証拠の偏在があるようなケースにもこの原則を貫くと不公平な結果になりやすく、一定の場合には当事者には事案解明義務があり、この「提出しない自由」は制限を受けるべきではないかという素朴な疑問が生じます。

本論文は、事案解明義務との関係で「提出しない自由」とはそもそも保護されるべきか、保護されるとしてその具体的な範囲はどこまでかといった点を丁寧に掘り下げていきます。

そして、法律上あるいは契約上、実態法上の説明義務が認められるような場面では、民事訴訟の場においてもその説明義務の一環として、提出をする義務があるとします。

そして、あくまでも当事者の主体性を尊重するという観点から、提出しない自由が制限される場面でも当該当事者が負うべき義務は、一定の資料や情報を「提出」する義務であり、その提出された資料等を踏まえて「主張」するか否かは当該当事者の自由であるとします。

 

「提出しない自由」というものを深堀りしつつ、当事者の主体性尊重とのバランスを図るという解釈論には色々と考えさせられました。事案解明義務や提出しない自由といってもアバウトに主張するのではなく、いかなる根拠で提出しない自由が制限されるのかを緻密に検討しなければならないことの大事さを改めて感じました。

 

 

それではznkさんにバトンをつなぎます。

 

*1:本論文では広義のサルベージ条項と狭義のサルベージ条項の2つが解説されていますが、ここでは狭義のことを指します

Eコマース実務対応(個人情報保護)に関するNBL記事の雑感

NBLの2021.9.15号に掲載されている、吉川昌平弁護士と上原拓也弁護士の「Eコマース実務対応(規約作成上の留意点等)第10回」個人情報保護に関する留意点(1)の記事を読みました。

 

https://www.shojihomu.co.jp/nbl/nbl-backnumbers/1202-nbl

 

この連載は、Eコマース運営者として留意すべき法的問題を取り上げているのですが、今回は個人情報保護に焦点を当てたものの第1回ということになります。

 

Eコマース運営においてプライバシーポリシーはどのような法的意義を持ち、運営者側はどのような点に留意をすべきかという点が解説されています。

 

プライバシーポリシー法的意義として次の5つを挙げており、分析や検討の視点として大変参考になりました。

  1. 個人情報保護法に基づく情報提供義務の履行手段としての意義
  2. 個人情報取得時の利用目的の明示手段としての意義
  3. 情報の取扱いに関する本人の同意の取得手段としての意義
  4. 提携事業者との間の契約に基づく義務の履行手段としての意義
  5. プライバシーマークその他の認証取得を目的とした体制整備手段としての意義

 

特に、3の同意については、まずは個人情報保護法上の同意(個人データの第三者提供、外国にある第三者への提供、令和2年改正法下での個人関連情報の第三者提供)が念頭に置かれることになります。ただ、ここでいう同意は個情法上の同意以外に、私法上のプライバシーに関する請求権の不行使の同意も含まれるとし、民法消費者契約法に基づき効力が否定されることもあると指摘します。

 

更に、Eコマース運営者としては、民法1条2項の信義則を根拠とした情報提供義務を負う可能性があるとも述べます(ただし、信義則上の情報提供義務を根拠に、上記以外の事項について、プライバシーポリシーを通じて情報提供しなければならないと認められる場面は限定的であるとします)。

 

 

令和2年改正法でも事業者側の義務や責任を増やす形での規定が設けられることからしても、個人情報・プライバシー保護の重要性は一層増しているように思われます。また、「取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律」も本年4月28日に成立したこと等からしても、Eコマース運営において、オンライン取引という場面での消費者保護のニーズも増しており、丁寧な説明や透明性が求められるでしょう。

 

本記事は、個人情報保護法だけでなく、私法上の同意や信義則上の情報提供義務といった様々な視点や角度から分析をしており、Eコマースの法的問題点を検討する上で大変勉強になりました。

本記事の連載はまだ続くようであり、引き続き関心を持って読んでいきたいと思います。

 

LEGAL LIBRARYの活用について

最近はLEGAL LIBRARYにお世話になることが多いです。

サービス開始当初から利用しており、当初は掲載されている書籍の数もそこまで多くはなかったのですが、現在は質・量とも相当充実している印象です。

 

直近では、我妻先生の民法講義シリーズの掲載も開始されるという素晴らしい動きが・・・!

我妻栄 著『民法講義』シリーズが「LEGAL LIBRARY」に掲載開始。岩波書店と電子配信に関する基本契約を締結 - WMR Tokyo - エンターテイメント

 

 

自分なりに、LEGAL LIBRARYをどのように活用しているか、どのようなメリットがあると感じているかを簡単にまとめておきます。

 

1 リサーチの効率化

 従来のリサーチとしては、紙媒体での文献をあたり、必要に応じてインターネットでの検索をするというスタイルでした。しかし、紙媒体だと置き場所を探すのに時間がかかったり、インターネット検索だと信頼性の低い情報も多数ヒットしてしまうことで、無駄な時間が生じていました。

 LEGAL LIBRARYだと、法律書のデータベースの中からキーワード検索して、該当する情報を探しあてることができるので、効率よく、しかも(ネット検索とは違い)信頼度の高い情報にたどり着きやすくなります。

 

2 紙媒体の書籍の購入頻度は減らない(むしろ良書に出会うためのツール)

LEGAL LIBRARYの利用を始めた当初は、これで紙媒体の書籍を購入したり利用する頻度が減ることになると思っていました。しかし、実際に利用した後も、特に購入や利用が減ったことはありません。むしろ、LEGAL LIBRARYで検索することで、全く存在も知らなかった良書に巡り合うことも増え、それを紙媒体の書籍で購入するということも多くあります。

効率の良いリサーチという意味ではLEGAL LIBRARYのようなツールは大変有用です。他方で、じっくりと深く分析・検討するためには、やはりパソコンのディスプレイ越しでの閲覧ではなく、紙の書籍で何度もページをめくり直接ページに書き込みする方がありがたいと感じます。よって、紙媒体での書籍を購入する必要性が減ることはなさそうです。

 

LEGAL LIBRARYによるデータベース上でのリサーチと、従来通りの紙媒体でのリサーチと、それぞれの長所を使い分けていくことが重要だと思っています。

 

3 ちょっとした息抜きにも

起案やリサーチ等を終えた後のちょっとした息抜きとして、LEGAL LIBRARYに好きなキーワードを入力して出てきた文献を眺めることも面白いです。自分の思いもよらない本や論文がヒットするので、それをざっと読むだけでリフレッシュになります。

法律関係で参考となる情報のまとめ(主に官公庁)

 

 

法律実務においては情報収集は欠かせません。

しかし、膨大な情報が溢れている現代において、信頼度の高い情報を的確に取捨選択していくことはますます難しくなっているように思います。

 

この点、官公庁が法律関係において有益な情報を掲載していることが多く、リサーチの上では心強いです。

 

今回の記事では、官公庁を中心に、有益と思われるサイトを紹介いたします。

※あくまで暫定版であり、今後加筆修正していく可能性があります。

 

 

厚労省「法令・通達・裁判例・各種参考資料などの検索(試行運用中)」

法令・通達・裁判例・各種参考資料などの検索(試行運用中) |厚生労働省

その名の通り、労働関係の法令や通達、裁判例等の情報を検索することができるデータベースとなっております。

ここで紹介されている、独立行政法人 労働政策研究・研修機構の「労働問題Q&A」は、労働関係の法律問題をテーマごとに分かりやすく解説しているので、大変参考になります。

 

一般社団法人「日本人材派遣協会」のサイト

https://www.jassa.or.jp/

派遣をとりまく法制度や現状、統計情報等、豊富な資料が揃っています。

 

法務省:債権法改正に関するサイト

法務省:民法の一部を改正する法律(債権法改正)について

債権法改正の概要や条文、パンフレットが掲載されています。

説明用資料として、依頼者向けに配布する上でも有益なツールといえます。

 

公正取引委員会:下請法の解説ページ

https://www.jftc.go.jp/shitauke/index.html

中小企業や個人事業主関係の法律実務では頻出の下請法については、まずこのページが必見でしょう。法律の概要や、よくある質問、勧告事例等が掲載されています。

 

各業界に即したガイドラインも掲載されています。

中小企業庁:下請適正取引等推進のためのガイドライン

 

個人情報保護委員会個人情報保護法関係の解説ページ

法令・ガイドライン等 |個人情報保護委員会

事業の規模の大小に関わらず、個人情報・プライバシー関係については非常に変化が激しく、事業者としてキャッチアップしていくことも一苦労です。

個人情報保護法関係では、この個人情報保護委員会の解説ページが非常に重要です。

法律の概要、ガイドライン、中小企業向けの解説ページも設けられています。

しかも、同委員会のトップページには、「PPC質問チャット」として、チャットボット形式で個人情報保護法関係の質問ができる形になっており、便利です。

 

 

(2021.3.16追記)

労働政策研究・研修機構の論文データベース

論文データベース検索

 労働関係の論文のデータベースです。

 

消費者庁のHP

toCの事業をしている企業にとって消費者法に関する法改正や裁判例等の動きは重大な関心事です。消費者庁のHPではこのあたりについて詳しい情報を提供してくれています。

 

例えば、昨年大きな話題となったモバゲーの利用規約消費者契約法違反が問われた訴訟について、その経緯や顛末が公表されています。

埼玉消費者被害をなくす会と株式会社ディー・エヌ・エーとの間の訴訟に関する控訴審判決の確定について | 消費者庁

 

また、消費者団体訴訟の事例集も公表されており大変参考になります。

消費者団体訴訟制度「差止請求事例集」 | 消費者庁

 

消費者契約法の逐条解説も掲載されています。*1

逐条解説 | 消費者庁

 

特定商取引法ガイド

その名の通り、特定商取引法に関する情報がまとめられています。

特定商取引法ガイド

 

特定商取引法の逐条解説もあります。

特定商取引に関する法律・解説|特定商取引法ガイド

 

公益社団法人著作権情報センターCRICのHP

著作権データベース | 公益社団法人著作権情報センター CRIC

著作権関係のQ&Aや文献検索のデータベース等が掲載されています。

 

経済産業省不正競争防止法の解説ページ

不正競争防止法 (METI/経済産業省)

不競法関係の情報が掲載されています。

 

不競法の逐条解説もあります。

https://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/pdf/20190701Chikujyou.pdf

 

国土交通省・建設業法令の解説ページ

建設産業・不動産業:建設業法令遵守・指導監督 - 国土交通省

建設業法関係も実務ではよく出てくる印象です。建設業は多重下請け構造となっており、下請業者が不当な取引条件が押し付けられやすいですが、下請法の代わりに建設業法でその保護が図られているので、建設業法についてはこのページで勉強することが有益です。

 

例えば、建設業法令遵守ガイドラインがあります。

建設産業・不動産業:建設業法令遵守ガイドライン - 国土交通省

 

政府広報オンライン

政府広報オンライン あしたの暮らしをわかりやすく

生活に関連する様々な情報が分かりやすくまとめられています。法律分野でも、民事訴訟制度や労働法、消費者法等が解説されているので、依頼者用への説明資料として有益です。

 

(2021.6.13追記)

最高裁判所図書館

最高裁図書館蔵書検索

https://s-opac.net/Opac/search.htm?s=aXbCO25UBZUHYHJnQwzQuyWoDne

 

法律関係の記事を検索することができます。上記の蔵書検索のページから、キーワードで検索すると、キーワード部分がマーキングされた蔵書が表示されるので、便利です。

 

(2021.6.19追記)

消費者庁製造物責任法関連

特にメーカーであれば製造物責任に注意する必要があります。

消費者庁のHPでは製造物責任法の逐条解説が掲載されており、大変便利です*2

製造物責任(PL)法の逐条解説 | 消費者庁

 

他に、PL訴訟の過去の訴訟一覧も掲載されており、争点や主な判断が分かります。過去の訴訟の概要を把握することで、訴訟当事者となった場合はもちろん、訴訟予防のためにどのような点に注意すべきかを判断するにあたり大変参考になります。

製造物責任(PL)法に基づく訴訟情報の収集 | 消費者庁

 

(2021.8.31更新)

森・濱田松本法律事務所の新型コロナウイルス関連リンク集

 

新型コロナウイルスに関するリンク集です。圧倒的な情報量で大変参考になります。

 

新型コロナウイルス対応 参考リンク集 | 森・濱田松本法律事務所

 

(2021.9.14更新)

白書・年次報告の一覧

国立国会図書館のリサーチナビにある、官公庁の白書・年次報告の一覧です。各分野の統計や情勢を知りたいときには有用です。

日本-白書・年報 | 政治・法律・行政 | 国立国会図書館

 

 

(2021.11.13更新)

国民生活センター:暮らしの判例

国民生活センターのHPで消費者法関連の裁判例が掲載されています。最近の主な消費者関連紛争の様々なケースを知ることができ、解説も分かりやすくまとめられており、大変参考になります。

暮らしの判例 バックナンバー(国民生活)_国民生活センター

 

 

 

*1:この逐条解説については、Twitterでフォローさせていただいているronnorさんからアドバイスいただきました。改めてありがとうございました。

*2:ツイッター@kojimasuda_lawさんから情報提供いただきました。ありがとうございました。

モバゲー会員規約の変遷と消費者契約法

 

モバゲーを運営する株式会社ディー・エヌ・エーに対し、適格消費者団体が利用規約消費者契約法違反を理由に差止訴訟を提起し、一審・二審とも請求認容としました。

 

一審判決については、以前ブログで紹介しました。

 

wakateben.hatenablog.com

 

 

一審・二審の概要、争点、判旨は消費者庁ニュースリリースでわかりやすくまとめられています。

https://www.caa.go.jp/notice/assets/consumer_system_cms203_210106_06.pdf

 

一審、二審、その後で、問題となった規約がどのように変わったかをまとめました。

 

一審判決時点

一審段階の規約は以下の通りです。

 

7条(モバゲー会員規約の違反等について)
1項 モバゲー会員が以下の各号に該当した場合,当社は,当社の定める期間,本サービスの利用を認めないこと,又は,モバゲー会員の会員資格を取り消すことができるものとします。ただし,この場合も当社が受領した料金を返還しません。
(中略)     
  

c 他のモバゲー会員に不当に迷惑をかけたと当社が判断した場合
(中略)

e その他,モバゲー会員として不適切であると当社が判断した場合

3項 当社の措置によりモバゲー会員に損害が生じても,当社は,一切損害を賠償しません。


12条(当社の責任)

4項 本規約において当社の責任について規定していない場合で,当社の責めに帰すべき事由によりモバゲー会員に損害が生じた場合,当社は,1万円を上限として賠償します。

 

 

判決は、7条1項cやeが著しく明確性を欠く等の理由で、3項は免責条項として機能するとして、消費者契約法8条1項1号・3号に該当するとしました。*1

 

二審段階

控訴審段階で、ディー・エヌ・エー側は、7条1項cとeにつき、当社が「合理的に」判断したという形で文言を加筆しました。

 

c 他のモバゲー会員に不当に迷惑をかけたと当社が合理的に判断した場合
(中略)

e その他,モバゲー会員として不適切であると当社が合理的に判断した場合

 

控訴審判決も一審判決を支持しました。

 

現時点

現時点で(2021.1.19)で規約を確認してみると、次のようになっています。

モバゲー会員規約- モバゲー

 

第7条 (モバゲー会員規約の違反等について)
1項 モバゲー会員が以下の各号に該当した場合、当社は、当社の定める期間、本サービスの利用を認めないこと、又は、モバゲー会員の会員資格を取り消すことができるものとします。ただし、この場合も当社が受領した料金を返還しません。

(中略)

c.他のモバゲー会員に不当に迷惑をかけた場合

(中略)
e.その他、モバゲー会員として不適切である場合

 

※3項削除

 

 

元々あった3項(「当社の措置によりモバゲー会員に損害が生じても,当社は,一切損害を賠償しません」)が削除されています。

 

これにより、事業者側の債務不履行不法行為による損害賠償義務を全部免除したという規定はなくなり、消費者契約法8条1項1号3号違反の問題は解消されたと思われます。

 

ただ、7条1項cとeについては、「当社が判断した場合」という文言は削除されているものの、依然として明確性があるとはいえず、その点が批判の対象となるリスクはなお残りそうです。

 

ディー・エヌ・エー側も、当然顧問弁護士や法務部と十分協議を経た上で、一定のリスクがあることは踏まえつつも、悪質ユーザーに対する機敏な対応を可能にするためにあえてcやeは基本的な形で残したように思われます。

 

実際、cやeの規定が消費者契約法違反となりうるとすれば10条ということになるでしょうか。ただ、ここでいう「迷惑」や「不適切」という点についても一定の限定解釈がされるものでしょし、10条違反となる可能性は低そうに思います。

 

*1:

 
第八条 次に掲げる消費者契約の条項は、無効とする。
 事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除し、又は当該事業者にその責任の有無を決定する権限を付与する条項
  (中略)
 消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除し、又は当該事業者にその責任の有無を決定する権限を付与する条項

自粛要請に違反して飲み会等に参加し、新型コロナウイルスに感染した従業員に対する懲戒処分の可否

1 問題の所在

新型コロナの第3波の状況が深刻になっており、首都圏に緊急事態宣言が発令される見通しのようです。

年末年始の風物詩であった忘年会・新年会を取りやめた企業も多いでしょう。

会食によるクラスター感染が連日報道されており、企業としては従業員に対し、業務終了後にも居酒屋等に行くことの自粛を要請しているところも多いと思われます。

 

さて、そのような自粛要請にもかかわらず、従業員が酒類を提供する店に行って大人数で会食をして新型コロナウイルスに感染したという場合、懲戒処分を行うことは可能なのでしょうか。

 

2 検討の視点‐私生活上の非違行為と懲戒の可否

会食の場ではクラスターが多く発生しているとされています[1]

そのためには、自社の従業員の安全のため、また、感染した従業員が他の従業員にも感染させることにより事業活動がストップ・大幅な修正を余儀なくされることを防止する必要性はあります。また、レピュテーションリスクも無視はできません。

これらのことからすると、感染リスクが高い行動について、一定の要請をすること自体は認められるものといえます。

 

ただ、この要請がいかなる法的性質のものかは吟味する必要があります。

そもそも、懲戒処分とは企業秩序違反行為に対する制裁罰であり、労働者の行為により企業秩序が害されたことが実質的な根拠となります[2]

 

大前提として、従業員が企業の服務規律に従うのは業務中であり、業務時間外のプライベートな行動については、原則として企業の管理支配は及びません。よって、企業として、プライベートなことについて介入することは原則として許されません。

 

三上安雄・増田陳彦・内田靖人・荒川正嗣・吉永大樹「懲戒処分の実務必携Q&A‐トラブルを防ぐ有効・適正な処分指針‐」(民事法研究会)243頁によると、私生活上の非違行為について懲戒処分をすることができる場面は限られているとしつつ、懲戒処分を検討する場合、①非違行為の性質および情状、②企業の事業の種類、態様、規模、経済界に占める地位、経営方針、③労働者の企業における地位・職種、④その他の事情などを総合的に考慮して、企業秩序や企業の社会的評価への悪影響が相当重大であるといえるか吟味する必要があるとしています。

 

業務外のプライベートな飲み会も私生活上の行為なので、上記の判断基準が妥当するものといえるでしょう。

 

3 飲み会参加した結果、感染にしたことについての懲戒処分の可否

(1)文献での解説

それでは、本件のように、自粛を要請していたにもかかわらず、従業員がプライベートで飲み会に参加して新型コロナウイルスに感染した場合、懲戒処分は可能となるのでしょうか。

この点について、ピンポイントに解説している論稿は、私が探した限りあまり見当たりません[3]

 

小鍛治広道編集「新型コロナウイルス影響下の人事労務対応Q&A」(中央経済社35頁では、要旨、以下のように記載されています。

・再度の緊急事態制限や都道府県知事からの外出自粛要請等があった場合に感染拡大防止のための私生活上の一定程度禁止する指示を出すことは可能である

・ただし、当該指示に違反した事実だけでは懲戒処分はできず、当該指示に違反して旅行等をした結果、新型コロナウイルスに感染した場合には、「会社の名誉・信用を害する行為又はそのおそれのある行為を行った場合」等の懲戒事由に該当するものとして、懲戒処分を科すことは可能

・旅行やゴルフに行ったり、飲み会やカラオケに参加したりした結果、新型コロナウイルスに感染してしまった場合には、社会的な批判が浴びせられるおそれが十分にあり、会社の業務運営や社会的評価に悪影響のあるおそれがある場合といえるので、懲戒事由によくある「会社の名誉・信用を害する行為又はそのおそれのある行為を行った場合」に該当するものとして、懲戒処分を科すことは可能

 

この文献を前提とすると、首都圏で再度の緊急事態宣言が発出された状況で、大人数での飲食を禁止する指示を出したにもかかわらず、その首都圏内にある飲食店で飲食をした結果新型コロナウイルスに感染したようなケースだと、懲戒処分を科すことが可能となりそうです。

 

 

他方、労政時報3999号(令和2年9月11日)156頁以下は、懲戒処分には相当慎重なスタンスです。

すなわち、飲み会による飲食店の利用は、類型的に新型コロナウイルス感染のリスクが高い行為であるとしつつも、感染リスクは、感染拡大・流行の状況に加え、飲食店の形態、混雑の程度、利用時間、店舗および利用客における感染防止対策の有無・内容によって変動、軽減され得るものであり、こうした事情を問わず一律に飲み会を禁止する業務命令は、必要かつ合理的な範囲を超え、無効となる可能性が高いとしています。

結局、この文献では、そもそも懲戒処分が可能なのか、いかなる場合に可能なのかといった点が必ずしも明らかではありません。

 

(2)検討

上記2で述べた通り、私生活上の行動について懲戒処分を発動できるのは例外的な場面であるという前提をまず理解しておく必要があるでしょう。

そして、①非違行為の性質および情状、②企業の事業の種類、態様、規模、経済界に占める地位、経営方針、③労働者の企業における地位・職種、④その他の事情などを総合的に考慮して、企業秩序や企業の社会的評価への悪影響が相当重大であるといえるかといった各要素を総合考慮して、企業秩序の維持の観点から懲戒処分を科すことが妥当といえるかを慎重に検討すべきことになります。

 

それを踏まえると、本件のようなケースで、懲戒処分が有効となるハードルは高く、以下のような状況を考慮する必要がありそうです。

 

・感染拡大状況が深刻かどうか(令和3年1月5日現在でいえば、再度の緊急事態宣言が予定されている東京等の首都圏であれば満たすと思われます)

・当該深刻な地域内での行為であるか

・従業員が行った店が感染防止策を十分講じていたか[4]

・飲食時の態様(人数、十分な距離の確保の有無、飲食時以外のマスクの有無等)

・当該企業の職種や社会的地位(大企業で感染リスクが比較的高い業種である場合には、秩序維持のために懲戒処分有効の方向になるか)

・当該従業員の役職(一般社員より役員や管理職の方が懲戒処分有効の方向になる)

・感染ルートが当該店での会食であることの確度(感染ルート自体が不明であれば、そもそも懲戒処分を行う前提を欠く)

 

3 まとめ

このあたりはまだ裁判例の集積もなく、懲戒処分が有効となるか、またいかなる条件が揃えば有効となるかは不明確なところが多いです。

 

いずれにせよ、私生活上の行為であることから、懲戒処分を行うことはハードルは高く、「けしからん」という理由で安易に処分することの危険性は高いです。

懲戒処分を行うという場合には、合理性・必要性を十分に説明できるだけの根拠を揃えておく必要があるでしょう。

 

 

 

[1] 厚生労働省新型コロナウイルスに関するQ&A」問4 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00001.html#Q1-4

[2] 労務行政研究所編「新・労働法実務相談 第3版」(労務行政)307頁【千葉博執筆】

[3] 他に解説している記事があれば是非ご教示いただけますと幸いです。

[4] 例えば、「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針(改正)に基づく外食業の事業継続のためのガイドライン」に沿った対応をとっているかどうか