若手弁護士の情報法ブログ

某都市圏で開業している若手弁護士が日々の業務やニュースで感じたこと、業務において役に立つ書籍の紹介等を記していきます。情報法・パーソナルデータ関係の投稿が多いです。

モバゲー会員規約の変遷と消費者契約法

 

モバゲーを運営する株式会社ディー・エヌ・エーに対し、適格消費者団体が利用規約消費者契約法違反を理由に差止訴訟を提起し、一審・二審とも請求認容としました。

 

一審判決については、以前ブログで紹介しました。

 

wakateben.hatenablog.com

 

 

一審・二審の概要、争点、判旨は消費者庁ニュースリリースでわかりやすくまとめられています。

https://www.caa.go.jp/notice/assets/consumer_system_cms203_210106_06.pdf

 

一審、二審、その後で、問題となった規約がどのように変わったかをまとめました。

 

一審判決時点

一審段階の規約は以下の通りです。

 

7条(モバゲー会員規約の違反等について)
1項 モバゲー会員が以下の各号に該当した場合,当社は,当社の定める期間,本サービスの利用を認めないこと,又は,モバゲー会員の会員資格を取り消すことができるものとします。ただし,この場合も当社が受領した料金を返還しません。
(中略)     
  

c 他のモバゲー会員に不当に迷惑をかけたと当社が判断した場合
(中略)

e その他,モバゲー会員として不適切であると当社が判断した場合

3項 当社の措置によりモバゲー会員に損害が生じても,当社は,一切損害を賠償しません。


12条(当社の責任)

4項 本規約において当社の責任について規定していない場合で,当社の責めに帰すべき事由によりモバゲー会員に損害が生じた場合,当社は,1万円を上限として賠償します。

 

 

判決は、7条1項cやeが著しく明確性を欠く等の理由で、3項は免責条項として機能するとして、消費者契約法8条1項1号・3号に該当するとしました。*1

 

二審段階

控訴審段階で、ディー・エヌ・エー側は、7条1項cとeにつき、当社が「合理的に」判断したという形で文言を加筆しました。

 

c 他のモバゲー会員に不当に迷惑をかけたと当社が合理的に判断した場合
(中略)

e その他,モバゲー会員として不適切であると当社が合理的に判断した場合

 

控訴審判決も一審判決を支持しました。

 

現時点

現時点で(2021.1.19)で規約を確認してみると、次のようになっています。

モバゲー会員規約- モバゲー

 

第7条 (モバゲー会員規約の違反等について)
1項 モバゲー会員が以下の各号に該当した場合、当社は、当社の定める期間、本サービスの利用を認めないこと、又は、モバゲー会員の会員資格を取り消すことができるものとします。ただし、この場合も当社が受領した料金を返還しません。

(中略)

c.他のモバゲー会員に不当に迷惑をかけた場合

(中略)
e.その他、モバゲー会員として不適切である場合

 

※3項削除

 

 

元々あった3項(「当社の措置によりモバゲー会員に損害が生じても,当社は,一切損害を賠償しません」)が削除されています。

 

これにより、事業者側の債務不履行不法行為による損害賠償義務を全部免除したという規定はなくなり、消費者契約法8条1項1号3号違反の問題は解消されたと思われます。

 

ただ、7条1項cとeについては、「当社が判断した場合」という文言は削除されているものの、依然として明確性があるとはいえず、その点が批判の対象となるリスクはなお残りそうです。

 

ディー・エヌ・エー側も、当然顧問弁護士や法務部と十分協議を経た上で、一定のリスクがあることは踏まえつつも、悪質ユーザーに対する機敏な対応を可能にするためにあえてcやeは基本的な形で残したように思われます。

 

実際、cやeの規定が消費者契約法違反となりうるとすれば10条ということになるでしょうか。ただ、ここでいう「迷惑」や「不適切」という点についても一定の限定解釈がされるものでしょし、10条違反となる可能性は低そうに思います。

 

*1:

 
第八条 次に掲げる消費者契約の条項は、無効とする。
 事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除し、又は当該事業者にその責任の有無を決定する権限を付与する条項
  (中略)
 消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除し、又は当該事業者にその責任の有無を決定する権限を付与する条項