若手弁護士の情報法ブログ

某都市圏で開業している若手弁護士が日々の業務やニュースで感じたこと、業務において役に立つ書籍の紹介等を記していきます。情報法・パーソナルデータ関係の投稿が多いです。

モバゲー利用規約差止判決(さいたま地裁R2.2.5判決)についての雑感

 

モバゲー利用規約についての一部差止判決、大きなニュースになっています。

 

www.nikkei.com

 

原告である埼玉消費者被害をなくす会にて、判決文がアップされています。

適格消費者団体 特定適格消費者団体 特定非営利活動法人 埼玉消費者被害をなくす会

 

これについては、既に法律関係者による様々な解説記事が出ており、大変参考になります。

www.cloudsign.jp

 

storialaw.jp

 

 

このブログでは、判決文について備忘録的に、いくつか気になった点をコメントしておきます。

 

判決文の論旨明快さ

とにかく、判決文が論旨明快で非常に読みやすいです。

まず、「第3 陶裁判所の判断」「1 争点1・・・について」(1)にて、法の趣旨から導かれる判断枠組みを示します。

そして、(2)の検討において、本件で問題となっている規約の「当社が判断した場合」の規定の不明確さを論じます。

更に、実際にもディー・エヌ・エーからモバゲー利用を停止されたにもかかわらず問い合わせても理由の説明や支払済利用料の返金が拒否されているとの相談が複数あったことに触れ「被告は、上記のような文言の修正をせずにその不明確さを残しつつ、当該条項を自己に有利な解釈に依拠して運用しているとの疑いを払拭できないところである」とまで述べ、結論として消費者契約法8条1項・3号各前段に該当するとします。

 

規範:法の趣旨からの判断枠組み提示

あてはめ:問題となった利用規約の文言の記載の不明確さ+実際に事業者の不誠実な対応(利用停止に対する説明拒否等)

結論:消費者契約法違反

という、いわゆる法的三段論法を踏まえたお手本のような判決文です。

法律文書の書き方として大いに参考になります。

 

「当社が判断した場合」という文言の問題

本件では、以下のような文言の規定が問題視されました。

7条1項

c 他のモバゲー会員に不当に迷惑をかけたと当社が判断した場合

e その他、モバゲー会員として不適切であると当社が判断した場合

 

これについて、ディー・エヌ・エー側は、ここでいう「判断」とは「合理的な根拠に基づく合理的な判断」を意味するという主張をしましたが、裁判所は

・文言自体が客観的な意味内容を抽出し難い

・その該当性を肯定する根拠となり得る事情やそれに当たるとされる例が規約中に置かれていない

ことをもって、「被告は上記の『判断』を行うに当たって極めて広い裁量を有し、客観性を十分に伴う判断でなくても許されると解釈する余地がある」とし、被告の主張を退けて、「著しく明確性を欠き、契約の履行などの場面においては複数の解釈の可能性が認められると言わざるを得ない」としました。

 

 事業者側としては、会員の問題行動については利用停止を含む厳しい対応ができるよう、本件のような「当社が判断した場合」という漠然・広汎な文言を使いたくなるところです。

しかし、それでは事業者側に極めて広い裁量があり、自由に判断できると解釈されかねないところです。

 

明確性を担保するのであれば、不適切とされる具体例を列挙したり、あるいは「合理的な根拠がある場合」といった限定を付すなど、その範囲が相当程度明確になるような規定にする必要があるということでしょう。

 

この判決は消費者契約法の解釈・適用が問題となった事例であり、事業者間取引にそのまま妥当するものではもちろんありません。

しかし、事業者間取引でも「当社が判断した場合」という規定の不明確性は問題となるところです。例えば、契約締結のやりとりの中で、相手方から提示された契約書あるいは利用規約の書式に、この文言が入っている場合、本件の判決を持ち出して削除・修正を求めるといった交渉をする余地がありそうです。