若手弁護士の情報法ブログ

某都市圏で開業している若手弁護士が日々の業務やニュースで感じたこと、業務において役に立つ書籍の紹介等を記していきます。情報法・パーソナルデータ関係の投稿が多いです。

最近読んだ本の簡単メモ

 

1440時間の使い方

  

 

1440分の使い方 ──成功者たちの時間管理15の秘訣

1440分の使い方 ──成功者たちの時間管理15の秘訣

 

 タイムマネジメントに関する本です。単に著者のノウハウを一方的に教えるのではなく、一流の企業経営者やアスリートにインタビューし、豊富な実例を紹介している点が特徴的です。TODOリストは使うな、やるべきことは手帳に書き込めというアドバイスは大変参考になりました。

 

 

イデア大全

 

 

博覧強記の読書家である読書猿さんの本です。問題解決のためのアイデアを出す方法を、それを生み出した人物のエピソードや背景とともに解説しています。個人的にはノンストップライティングが役に立ちそうだと感じました。

  

 

プライバシー権復権

 

プライバシー権の復権 (自由と尊厳の衝突)

プライバシー権の復権 (自由と尊厳の衝突)

 

 

GDPRの解説本も最近出された宮下紘先生によるプライバシーに関する論文集です。

プライバシーの生みの親であるブランダイスの人物像や当時の時代背景を踏まえて、プライバシーを単に「一人にしてもらう権利」とするのではなく、より深く考察しています。また、プライバシー二都物語として、アメリカとヨーロッパでのプライバシーの受容と発展の経過を追い、自由を強調するアメリカと尊厳を重視するヨーロッパの価値観の違いを解説しており、参考になりました。

 

弁護士「好きな仕事×経営」のすすめ

 

 

 

ノースライム先生こと北周士先生が編集代表となり、得意分野を持ち活躍されている比較的若手の弁護士を紹介し、それぞれの専門分野、その分野を確立するに至った経緯、経営に関する工夫や留意事項が記載されています。生々しい経営面に関する解説は非常に貴重で大いに参考になりました。専門分野を確立しそのスキルを維持するために海外出張や図書館で文献を探すといった地道な努力が必要であること、仕事漁りではなく弁護士という肩書きを外して虚心坦懐に相手の話を聞くことが大事ということ、改めて気づかされました。

 

経営戦略原論

 

経営戦略原論

経営戦略原論

 

 その名の通り、経営戦略について掘り下げた本です。しかし、この本はただ経営戦略を解説するのではなく、理論と実務を架橋することを強く意識し、経営理論の流れを解説しつつ、それが企業の実践においてどのように活用されるかに踏み込んでいます。

 ファイブフォースやプロダクトポートフォリオマネジメントといった、経営戦略本ではほぼ必ず紹介されるこれらのフレームワークについても、表面的な解説ではなく、どのような背景で生まれたのか、やりがちな誤った使い方等も丁寧に解説してくれており、大変参考になります。

 

 

 

情報法関係で参考になった論文

 

板倉陽一郎「プライバシーに関する契約についての考察」

(1)http://alis.or.jp/img/issn2432-9649_vol1_p028.pdf

(2)http://alis.or.jp/img/issn2432-9649_vol2_p067.pdf

 

プライバシーポリシーや利用規約の法的性質を掘り下げて分析。個人情報保護法上の(公法的な)同意と、プライバシー侵害を理由とする損害請求・差止請求不行使の同意とに区別し、後者の場合には同意があっても無際限に免責されるわけではなく場合によっては無効となる可能性があると指摘。プライバシーに関する契約をこれだけ深く分析する板倉先生の緻密さに脱帽です。(3)はまだ公刊されていないようですが、読むのが待ち遠しいです。

 

 

加藤隆之「個人情報保護制度の遵守とプライヴァシー権侵害 : 個人情報の第三者提供に関する判例を中心として」

https://ci.nii.ac.jp/els/contents110008585237.pdf?id=ART0009715011

 

個人情報保護上違反の有無と、プライバシー侵害の有無を区別する峻別論が一般的な見解であることを前提としつつ、両者が衝突する場合を過去の判例をもとに分析・検討しています。弁護士会照会(いわゆる23条照会)においては、個人情報を開示することは個人情報保護法の関係では許容されうるが、他方で当該情報の主体からプライバシー侵害を理由として照会に応じた企業が損害賠償請求をされる可能性があることの問題点を詳細に指摘。企業側としては制裁が緩い個人情報保護法よりも損害賠償の方を危惧し、結局プライバシー侵害をいわれないために照会には応じないという対応に出るのが自然として、個人情報保護法は有効な行為規範として機能しないのではないかと疑問を投げかけます。パーソナルデータの法的問題を考える上では個人情報保護法だけにとらわれるのではなく、プライバシー侵害の有無も含めてより大きく広い視点で検討しなければならないことを改めて考えさせられました。

 

 

成原慧「情報社会における法とアーキテクチャの関係についての試論的考察」

http://www.iii.u-tokyo.ac.jp/manage/wp-content/uploads/2016/03/20111019-81_5.pdf

 インターネットが高度化した現代では、人々の行為を規律する手段として、「アーキテクチャ」の存在が重要になっています。この論文では、アーキテクチャとは何か、そのメリットと弊害・危険性を法との比較で分かりやすくまとめられています。法とアーキテクチャどちらか一方に偏るのではなく、両方の利点を上手く活かすという視点が重要になると感じました。

 

【書籍紹介】「弁護士会照会ハンドブック」

佐藤三郎他「弁護士会照会ハンドブック」 

弁護士会照会ハンドブック

弁護士会照会ハンドブック

 

 弁護士業務をする上で、弁護士会照会(業界では23条照会と呼ぶことが多い)の利用は欠かせません。

 

  定型的な照会であればルーティンで処理できるのですが、イレギュラーな事案においてどこまで利用できるのか、また照会を受けた側から相談された場合にどういうアドバイスをすべきかは悩むところです。

 

  本書は、弁護士会照会の制度の概要、類型別の対応、関連する裁判例を豊富に紹介しています。単なるマニュアルではなく、制度の背景にある考えや理論の根拠をわかりやすく解説してくれており、大いに参考になります。今後、照会制度について調べる際に参照すべき本になることは間違いなさそうです。

 

工夫されたプライバシーポリシー・利用規約の実例

 

ヤフージャパン

 プライバシーポリシーとは別に、「プライバシーガイド」のページを設けて、ビジュアルを使って個人情報の取り扱いについて記載されています。ビジュアルを使って分かりやすく解説されています。

 

Yahoo! JAPANプライバシーガイドYahoo! JAPANプライバシーガイド 

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PIXTA

写真の素材サイトです。利用規約のうち、重要な条項についてはすぐ下に「ポイント」という欄を設けて特に注意すべき点を表記しています。利用規約は冗長でありただ読むのはユーザーにとって苦痛ですが、このようにポイントを絞って注意喚起されるとユーザーにとっては分かり易いですし、企業にとってもリスクヘッジという点で有効でしょう。

 

利用規約 - 写真素材 PIXTA

 

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大阪弁護士会

弁護士会のプライバシポリシーはこれまでチェックしていなかったのですが、個人情報の内容と利用目的とを対比した表を設けております。多くのプライバシーポリシーでは、取得する個人情報の種類と、その利用目的との対応関係が分かるような記載になっていませんが、このような表形式での記載は見た目にも分かりやすく対応関係が一目瞭然です。

 

http://www.osakaben.or.jp/09-aboutsite/pdf/db_mokuroku.pdf

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分かりやすい利用規約の例

本日の日経新聞の朝刊に、利用規約・プライバシーポリシーをユーザーに読まれやすくするための取り組みが特集されていました。

 

目指せ、読まれる利用規約 フェイスブック問題で注目 :日本経済新聞

 

 

慶應義塾大学SFCリーガルデザイン・ラボ、株式会社THE GUILDおよび弁護士ドットコムの三者で結成された「コントラクトギルド」による研究や、シェアリングエコノミー協会による認証制度等、最新の事例が分かりまとめられており大変参考になります。

 

この記事で紹介されていたシェアリングエコノミーの仲介サービスである「Anytimes」の利用規約を見てみました。

利用規約 | Anytimes・エニタイムズ 

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一見するとどこにでもある利用規約です。

しかし、どんどん下にスクロールしていくと「お客様にご注意いただきたいこと!」という記載が。

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この部分は以下のことが記載されています。

 

**お客様にご注意いただきたいこと!

利用規約の第14条等で、当サイトでの禁止事項を定めさせていただいていますが、具体的には、以下のような行為については禁止されています(典型的なケースを挙げたもので、以下のような行為に限られるわけではありません。)。会員の皆様がこのような禁止事項を実施された場合、当社としては、会員登録を取り消すことがありますので、予めご了承ください。

  1. 食品衛生法及び都道府県条例の規定に違反する行為
  2. 通訳案内士の資格を有しない者が、有償で外国人向けに外国語で旅行に関する案内するサービスを提供する行為
  3. 医師、看護師、弁護士、司法書士行政書士社会保険労務士、税理士などの資格を有しない者、または資格はあるが登録がない者が、有償でそれらの相談を行う行為
  4. 国土交通大臣の許可がない者が、自家用自動車を業として有償で貸し渡す行為
  5. 介護士の資格を有しない者が、訪問介護のサービスを提供する行為
  6. 著作権や商標権、肖像権などの権利を侵害する行為
  7. 異性との出会いを募集、あっせん、または誘導することが目的であると捉えられる内容を掲載する行為
  8. ナイトワークなどの求人情報、サービス情報を掲載する行為
  9. ネットワークビジネスマルチ商法MLMのメンバーを募集、勧誘する行為
  10. 反社会的なもの、または反社会的勢力に関連する可能性があると当社が判断した行為

 

 

 ユーザーの大部分は利用規約をしっかりと読まず最後までスクロールして同意にクリックすることになります(「クリックトレーニング」とよばれることがあります)。

しかし、Anytimesの利用規約は一番下の部分に、典型的な禁止行為を取り上げて注意喚起をしており、そのメッセージ性やインパクトは大きいです。ユーザーがろくに利用規約を読まずにうっかり禁止行為に触れてしまうリスクが軽減され、トラブル防止につながり、運営側としてもメリットは大きいでしょう。

 

分かりやすい利用規約・プライバシーポリシーというと、アイコンを使ったりラベル形式にする、要約版を別途用意するといった工夫がありましたが、Anytimesのように特に重要な点を一番下の部分にまとめるという発想が面白く、大変参考になった次第です。

 

 

 

 

 

プライバシーポリシーを自動解析するツール:Polisis

 

詳細かつ正確なプライバシーポリシーとユーザーの理解しやすさは反比例します。企業側として、リスクを極力減らし漏れがないようにすればするほど、長大で難解な文書となり理解は困難です。

ラベル形式にする、詳細説明用と簡易説明用の2種類のポリシーを用意するといった工夫をしている企業もありますが、やはり文書だけではわかりづらいことは否めません。

しかし、既に海外ではプライバシポリシーを自動的に解析するシステムが公開されていることを知り大きな衝撃を受けましたので、紹介します。

 

「Polisis」という名称で、スイスのローザンヌ連邦工科大学、ウィスコンシン大学ミシガン大学らの研究者からなるチームが作成したものです。HP(https://pribot.org/)にとぶと、「Polisis」と「PriBot」の2つのアイコンがあります。

 

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右側の「Polisis」がプライバシポリシー自動解析ツール、左側の「PriBot」がプライバシポリシーについて会話形式でやりとりができるチャットボットです。

 

 

「Polisis」では企業のプライバシーポリシーが掲載されているURLを貼付けると自動的に解析しビジュアル化してくれます。ためしにアップルのプライバシポリシーを読み込むと以下のような表示となりました。

 

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この表示された解析を元に、右にある「QUESTION」のボタンを押すと、チャットボットでプライバシーポリシーに関するやりとりができます。例えば、第三者提供に関する質問をすると、該当する記載を探しだしてきてくれます。

 

 

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これがあると、ユーザーとしては自分のデータがどのように扱われるか一目瞭然であり非常に分かり易いです。文書だけでの説明とでは圧倒的な差があります。

また、企業としては、難解なポリシーを作って、ユーザーの重要なデータをこっそり使うという姑息な手を使うことが難しくなります。その反面、ユーザーのパーソナルデータに対して真摯な取り組みをしている企業にとっては、逆にPolisisでの解析結果を積極的に開示することで自社の誠実さをアピールするという使い方もあるでしょう。

 

今のところ、英語の文書にしか対応していないようですが、日本でもプライバシーポリシーは大体同じような構造になっていることを考えると、いずれは日本でも同様のサービスが作られるのではないかと予想しています。

 

【書籍紹介】「個人情報保護法の解説」:真打登場

園部逸夫・藤原靜雄編集、個人情報保護法制研究会著 「個人情報保護法の解説」(第二次改訂版)

ぎょうせいオンライン / 個人情報保護法の解説 第二次改訂版

 

改正個人情報保護法に関する膨大な数の書籍が出ている中、満を持して立法担当者による逐条解説が出ました。

 

本書は5部構成となっており、第1編が個人情報保護法や改正部分の概要、第2編が法律制定や改正に至る背景、そして第3編がメインである逐条解説。第4編が GDPRの概要、第5編が条文等の参考資料です。

 

第2編の背景の説明はコンパクトながらも丁寧に書かれており、そもそもなぜ個人情報保護法が制定されたのか、改正はどのような経過を辿ったかを理解することができます。

 

逐条解説の部分もそれぞれの条文の趣旨や要件等を分かりやすく記載しています。法律の条文だけでなく関連する政令ガイドラインの該当部分も引用しているので、一覧性があり非常に便利です。

 

更に、GDPRの解説もついているのがありがたい。ページの関係で概要だけの解説になっていますが、重要なポイントは押さえられています。個人情報保護法制を検討する上でGDPRを抜きにしては考えられないことが改めて分かりました。

 

今後、個人情報保護法関係で調べ物をする際には真っ先に参照すべき本になるでしょう。