若手弁護士の情報法ブログ

某都市圏で開業している若手弁護士が日々の業務やニュースで感じたこと、業務において役に立つ書籍の紹介等を記していきます。情報法・パーソナルデータ関係の投稿が多いです。

【書評】実務解説 行政訴訟

行政訴訟というと非常にハードルが高い印象があります。

 

個別の法令を読み込んで違法となる根拠を探し当てて主張立証していくことの難しさや労力もさることながら、更に行政訴訟特有の問題として訴訟類型のうちどれをとるべきか(取消訴訟か無効確認訴訟か、義務付訴訟か等)、また原告適格や訴えの利益といった訴訟要件を満たすかといった点の難解さも敷居を高くしている大きな要因です。

 

私自身、行政訴訟にはほぼ無縁であったのですが、この度大島義則編著「実務解説 行政訴訟」をご恵贈いただきました。

 

実務解説 行政訴訟 (勁草法律実務シリーズ)

実務解説 行政訴訟 (勁草法律実務シリーズ)

 

 

 

執筆陣は「行政訴訟の攻撃防御方法研究会」のメンバーの方々で、非常に豪華な顔ぶれです。立法者意思を知るために情報公開法に基づき平成16年行訴法改正時の資料まで入手したということで、その熱意と緻密なリサーチには頭が下がります。

 

冒頭の「はじめに」で「行政訴訟を受任した弁護士等の行政訴訟を提起・追行する者を想定読者としている」とあるとおり、とかく行政訴訟に不慣れな者向けに、検討すべき点を徹底的に分かり易く解説しています。

 

例えば、p20~21では、取消訴訟や不作為の違法確認訴訟といった各訴訟類型における訴訟要件を一覧にした図表を掲載しており、それぞれの訴訟類型ごとの特徴を図示してくれているのがありがたいです。

 

また、それぞれの訴訟類型において、勝訴を得るにあたり問題となりうる論点をピックアップし、その論点ごとに検討すべき点を解説してくれています。例えば、取消訴訟であれば以下のような論点が挙げられています。

・処分性

原告適格

・狭義の訴えの利益

・本案勝訴要件

・主張立証責任

・違法性の承継

・行政調査

・手続的瑕疵

憲法上の権利の主張

・違法性の主張制限

・理由の差替えの制限

行政訴訟の立証活動

・執行停止の実体的要件

 

このように各訴訟類型において実務上問題となる論点をナビゲートしてくれているので、初めて行政訴訟に取り組む場合でもどのような論点があり、どの点に留意して処理を進めていけばよいのかをイメージできます。私のような行政訴訟についての初心者にとっては非常に心強いです。

 

行政訴訟という難解かつ複雑怪奇な森を迷わずに進むための必携のガイドといえそうです。