【判例メモ】参考判例 楽曲の公表権侵害に基づく損害賠償が認められた事例
東京地判平成30・12・11判例時報2020年1月21日号57頁)
当事者
原告 音楽家(作詞作曲、歌手活動をしている者)
被告1 芸能レポーター
被告2 被告1が出捐するテレビ番組を放送した放送事業者
事案の概要
原告が、覚せい剤取締法違反等の罪による執行猶予期間中に創作した楽曲の録音データを被告1に提供したところ、被告1が自ら出演する番組内で、捜査機関が原告に対する覚せい剤使用の嫌疑で逮捕状を請求する予定であることが明らかになったとして、その楽曲の一部を再生した
※この時点で、楽曲は公衆に提供・提示されておらず、公表・放送することについて原告は承諾しておらず
原告が公表権等侵害を理由として損害賠償請求。これに対し被告側は、著作権法41条の時事の事件の報道のための利用にあたる、また正当業務行為である等と反論
裁判所の判断
1 被告らによる公衆送信行為は著作権法41条所定の時事の事件の報道のための利用にあたるか
→否定
「本件楽曲は、警視庁が原告に対する覚せい剤使用の疑いで逮捕状を請求する予定であるという時事の事件の主題となるものではないし、かかる時事の事件と直接の関連性を有するものでもないから、時事の事件の構成する著作物に当たるとは認められない」
「・・・本件楽曲の紹介自体も、原告がそれまでに創作した楽曲とは異なる印象を受けることを指摘するにすぎないもので、これ以上に原告の音楽活動に係る具体的な事実の紹介はないものであるから、このような放送内容に照らせば、本件番組中における原告の音楽活動に関する部分が『原告が有罪判決後の執行猶予期間中に音楽活動を行い更生に向けた活動をしていたこと』という「時事の事件の報道」に当たるとは、到底いうことができない」
2 正当業務行為により公表権侵害の違法性阻却事由の有無
→違法性阻却認めず
「本件番組では原告の音楽活動にごく簡単に触れたに止まり、それに係る具体的な事実の紹介がないことは前記3で説示したとおりであるし、本件楽曲が原告による覚せい剤使用の事実の真偽を判断するための的確な材料であるとも認められない」
損害として117万4000円(著作権法114条3項による損害6万4000円、公表権侵害による慰謝料100万円、弁護士費用11万円)を認めた。
簡単なコメント
被告側はもっともらしい反論をしていますが、要は、逮捕される予定であるという報道に関して、未公表の楽曲をあえて公表することで視聴者の関心を惹こうとしたのではないでしょうか。
そもそも、アーティストから感想を聞かせてほしいという要請で提供を受けた楽曲のデータを無断で番組内で再生するということ自体、レポーターの倫理として許されるものではないでしょうし、番組内でその楽曲を流す必要もないはずです。アーティストの作品に対するリスペクトもその取扱いについての最低限のリテラシーもないと思わざるを得ません。
このような行為について明確に著作権侵害を認めたことは意義があると感じました。
本件は楽曲の無断公表が問題となりましたが、絵や小説といった作品でも同じ問題になると思います。
また、本判決の主題とは外れますが、逮捕状を請求する予定というニュースを報道する意味については非常に疑問に思っています。