改正個人情報保護法に関するお勧め書籍
5月30日付で改正個人情報保護法が全面施行されました。それに伴い、改正法に関する書籍が出版されていますが、数が非常に膨大です。
とある研修会にて改正法のことを発表する機会があり、そこで自分なりに色々と本を購入して勉強してみました。そこでの経験をもとに、改正法の解説本としてお勧めの本を独断と偏見で選んでみたいと思います。
岡村久道「個人情報保護法の知識」(日経文庫)
個人情報保護法の基本を知るための入門としてはこれが最適です。ページ数は多くなく、コンパクトながらも図表やチャートをふんだんに駆使して基礎の基礎を分かりやすく説明してくれています。1000円+αという値段を考えると非常にお買い得でしょう。
渡邉雅之「個人情報保護法・マイナンバー制度 法的リスク対策と取扱規程」(日本法令)
こちらは個人情報保護法だけではなく、マイナンバー法の解説も含まれています。 746頁と大部ですが、本文部分の記載は決して多くなく、規程集が豊富に収録されています。いわゆるプライバシーポリシーといった基礎となる規程のみならず、情報の管理等を第三者に委託する場合の業務委託契約書等、個人情報に関して実務上必要となる主要な規程や書式が揃っているので、この本を手元に置いておけば規程を作成する際に大いに役立つでしょう。
第二東京弁護士会情報公開・個人情報保護委員会「完全対応 新個人情報保護法Q&Aと書式例」 (新日本法規出版)
改正の背景、改正で何が変わったか、実際に事業者としてどのような対応をしないといけないのか等々、 改正法を踏まえて生じるであろう疑問についてQ&A方式で分かりやすくまとめられています。また、この本も末尾の書式集が充実しており参考になります。
福岡真之介他「IoT・AIの法律と戦略」(商事法務)
タイトルのとおり、IoTやAIをビジネスとして展開する際に問題となり得る法規制や対応の仕方を解説している本です。幅広い法律が紹介されていますが、その一環として個人情報保護法のことも解説されています。
この本の特色は、単なる条文の説明ではなく、ショッピングモールの運営者という事例を題材として、どのような場面でどの条文が問題となり事業者側としてどのような対処ができるかといったことを事案に即して解説してくれているところです。これにより、個人情報保護法が実際のビジネスの場面でどのように適用され、どのように活用していくのか具体的なイメージを持つことができました。
個人情報保護法は法律だけでなく、規則や政令に委任されている部分も多いうえ、例外事由も幅広く、簡単には理解しづらい法律です。それだけに、正確に内容を理解した上で改正法を踏まえた適切なアドバイスができるようになる上で、上記で挙げた書籍はとても有用だと思います。
書籍紹介 水野佑「法のデザイン」
水野佑「法のデザイン」(フィルムアート社)
クリエイターやデザイナー・アーティストらの権利擁護の業務に携わっておられる水野佑弁護士による著書です。
規制を守らせる・強制させるといったネガティヴで堅苦しい(もっと言えば鬱陶しい)というイメージで語られがちな法ですが、本書では法の持つ可能性・柔軟性に着目して、未来が予測しづらい高度情報社会において法を活かすことでイノベーションに寄与できることが語られています。
現代は有史以来、技術の発展と法規制の乖離が最も激しい時代であり、規制が追い付いていない法の「余白」について契約で柔軟に定めること(法をデザインする)の重要性が強調されています。
その上で、写真、音楽といった文化産業から不動産、家族に至るまで、幅広いテーマについて現状見られている新たな動きと今後の動向について著者の分析と予測が示されています。
弁護士業務においてブレーキやストップをかける方向に法を使うことが多く、関係者から煙たがられ、仕事のモチベーションが上がらないこともあります。もちろん、致命的な結果にならないようストップをかけるということは重要ではありますが、未開拓の分野において法を「デザイン」することは非常に魅力的だと感じました。
時代の最先端で奮闘している弁護士の斬新な発想に触れ、日々ルーティンワークとなりがちな弁護士業務の未来の可能性を感じさせてくれる本です。
書籍紹介「建築瑕疵の法律と実務」:法律と建築の基本がわかる
岩島秀樹他「建築瑕疵の法律と実務」(日本加除出版)
建築瑕疵の訴訟は知財、医療過誤、税務等と並ぶ専門訴訟です。建築瑕疵事件のハードルが高い点は、建築請負分野における法律構造や判例理論といった法的問題が複雑であることに加え、「瑕疵」に当たるか否かの判断において建築の専門的知見が必須であることです。つまり、建築瑕疵事件を取り扱う弁護士は、建築に関する専門書を読み込み一級建築士にも相談して方針を立てなければならず、多大や労力や時間がかかります。
特に、建築の素人である弁護士にとって難しいのは、問題となっている工事の内容が通常の水準から逸脱しているのか否かの判断です。これは建築の専門家でないと相場観も含めて分かりません。
本書は、弁護士と建築士による共同執筆という形で、建築瑕疵事件においてよく問題となる工事類型ごとに、標準的な施工方法と裁判例に照らして瑕疵となるケースをまとめたものです。これを読むことで自分が取り扱う案件の工事内容が標準的だったのかどうかある程度の見通しを立てることができ、建築士と協議をする際にも十分な予備知識を得ることができるでしょう。もちろん、訴訟をするにあたってはより専門的な文献にもあたる必要があるでしょうが、最初の見通しを立てる上のガイドとして最適です。
建築瑕疵事件を取り扱う際の必携書といえるでしょう。
膨大な資料を整理するコツ
仕事の上で膨大な資料を読む必要が生じることはよくあります。例えば交通事故や医療過誤事件におけるカルテでは、入通院歴が長くなると1000頁を超えることも珍しくありません。また、控訴審から受任する場合には当然一審の記録が前提となっており、一審判決のみならず準備書面や証拠、尋問調書を含めると相当な分量になります。
この膨大な資料の中から依頼者にとって有利な証拠となる部分を見つけ出す作業をしていくことになります。そのためには資料のどこに何が書いているかを整理してまとめることが必要となります。
この整理において最も重要なポイントは、資料の最初から最後まで全てページ番号をつけることだと考えています。
当然重要な箇所には付箋をつけますが、付箋が多くなるとかえって見づらいですし、付箋が剥がれることもあり得ます。
ページ番号をつけると「この記載は〇頁に書いている」という整理ができ、その記載がある箇所を確実に把握することができるというメリットがあります。
私は、資料の中の重要な部分をピックアップしたものを別途エクセルなどの整理表でまとめ、記載内容と該当するページ番号を一緒につけています。これにより、かなり作業は効率化されます。
膨大な資料を整理するときにページ番号をつけるという方法は、単純なようですが思っている以上に作業がはかどりますので、是非お試しすることをお勧めします。
書籍紹介「企業労働法実務入門」:使用者側からの労働法の使い方のイロハが分かる
倉重公太朗他「企業労働法実務入門」(日本リーダーズ協会)
企業労働法実務入門―はじめての人事労務担当者からエキスパートへ
- 作者: 企業人事労務研究会,倉重公太朗
- 出版社/メーカー: 日本リーダーズ協会
- 発売日: 2014/05
- メディア: 単行本
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主に企業側からの視点から、労働法は何のためにあるのか、どのような場面で使うのかを解説した本です。入門と書かれているとおり、難解な説明は極力省いており、労働法に関するテーマについて満遍なく平易に解説されています。また法律の解説だけではなく、人事組織マネジメントの基礎や社会保険・労働保険の基礎の説明もあり、これを読めば、企業側から見た人事労務の基礎を一通り学ぶことができます。
消費者事件を取り扱う際のお勧めの書籍
弁護士の業務の中で、消費者事件を扱うことはよくあります。しかし、消費者事件は分野も幅広く、特別法も複雑で処理に苦労することも少なくありません。
そこで、消費者事件を取り扱う際に手元に置いておくと便利な書籍を紹介します。
目次
- 日本弁護士連合会「消費者法講義」
- 圓山茂夫「特定商取引法の理論と実務」
- 村千鶴子「誌上法学講座‐特定商取引法を学ぶ」
- 村千鶴子「誌上法学講座‐割賦販売法を学ぶ」
- 福崎博孝「カード被害救済の法理と実務」
日本弁護士連合会「消費者法講義」
消費者法の全般的な理解をするための入門といえばこの一冊です。各分野について難しすぎない範囲でまとめられています。
圓山茂夫「特定商取引法の理論と実務」
特商法の詳しい解説といえばこの本は外せません。非常に分厚くとても通読はできませんが、特商法の条文を消費者側に有利に活用する方法が具体的に書かれているので、訴訟や交渉において大いに役立ちます。
村千鶴子「誌上法学講座‐特定商取引法を学ぶ」
特商法は非常に重要な法律ではあるのですが、条文の文言が非常に長く難解で、条文だけ読んでもその意味を十分理解することは困難です。この本は特商法の全体像と各類型の典型例を極めてコンパクトに分かりやすく解説してくれているので、特商法のイメージを持つには最適です。
村千鶴子「誌上法学講座‐割賦販売法を学ぶ」
上記の書籍の姉妹本で、割賦販売法についてです。 消費者事件においては支払不能の抗弁等、割賦販売法の理解も不可欠ですが、この法律も特商法に負けず劣らず難解な構造をしております。この本で全体像をつかむのがいいでしょう。
福崎博孝「カード被害救済の法理と実務」
消費者事件ではカード被害も典型的な類型です。この本ではカード被害に焦点を絞って具体的な処理の方法を詳しく解説しています。
消費者法の分野では、法改正や重要判例が頻繁に出されるので、上記で挙げた書籍を参照しつつ、常に最新の情報にもあたって知識をアップデートする必要があるでしょう。
書籍紹介「障害年金というヒント」:障害年金のイロハが分かる
中井宏監修「誰も知らない最強の社会保障 障害年金というヒント」(三五館)
障害年金の内容や申請手続、受給額等の基本について平易に解説している本です(執筆者は殆ど社労士です)。
癌やうつであっても障害年金の受給対象となる可能性があるということを本書を読んで初めて知り、本書が「最強の社会保障」と呼ぶ通り相当有用な制度であることに軽い衝撃を受けました。
弁護士の依頼者の中にも、癌やうつに罹患している方は決して少なくありません。そのような方に対しても、障害年金を使うことで生活を楽にすることができるかもしれないことに気づかせてくれました。
年金というとどうしても社労士の守備範囲で、弁護士にとっては関わりがないと思われがちですが(私自身もそのように思っていました)、依頼者の役に立つという観点からすれば障害年金のことも常に念頭に置かなければならないということですね。
年金についての解説本というと難解で読みづらい本をイメージしますが、本書はイラストも豊富に使用して全くの初心者であっても理解しやすい平易な説明をしていますので、障害年金について基本的なイメージを身に付けることができます。