若手弁護士の情報法ブログ

某都市圏で開業している若手弁護士が日々の業務やニュースで感じたこと、業務において役に立つ書籍の紹介等を記していきます。情報法・パーソナルデータ関係の投稿が多いです。

内容証明郵便を使うか否かの判断基準

 

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弁護士が依頼者の代理人として相手方と交渉を開始する場合、受任通知を兼ねて当方の要求をまとめた文書を内容証明郵便で送ることが多いです。内容証明郵便にはメリットもあるのですが、万能ではなくこれを使うことでかえってマイナスとなる場合もあります。そこで、内容証明郵便を使用すべきか否かの判断基準をお伝えします。 

内容証明郵便のメリット

 その文書を送ったことを確実に証拠化できる

 内容証明郵便は、その名のとおり、その「内容」の文書を送ったことを「証明」する文書です。相手方の「そんな文書は受け取っていない」との反論を封じることができ、文書を送ったか否かという争いを回避できます。

 特に、法律上、一定期間内に権利行使をすることが求められている場合、内容証明郵便を使用することで、期限内に請求をしたことを証明できます(例えば、遺留分減殺請求権は相続開始を知ったときから1年以内に権利行使をしなければなりませんので*1その期間満了前に内容証明郵便にて権利行使の意思表示をします)。

 

こちらの本気を示すことができる 

内容証明郵便を受け取ることは滅多にあるものではありません。内容証明郵便は体裁も通常の郵便と異なっており、こちらが本気で要求していることを示して相手方にプレッシャーを与えるという効果が期待できます。

 

内容証明を使うことがかえってマイナスとなる場合

このように内容証明郵便にはメリットがあるのですが、その裏返しとして、このメリットがかえってデメリットとなる場合があり得ます。

つまり、内容証明を出すということは、いわばファイティングポーズをとることであり、少なくとも受け取った方はこちらが喧嘩を仕掛けたものと認識することが殆どです。となると、対立状態を前提とせず円滑な話し合いをすることを想定している場合には、内容証明郵便を使用してしまうと相手方の態度が硬化し、話合いのテーブルにすら乗ってくれなくなる危険があります。

例えば、相続人の1名の代理人として、他の相続人との間で遺産分割協議を行おうとする場合を想定します。他の相続人との関係が極めて悪く話合いの余地がないことが最初から分かっている場合であれば、内容証明を使うこともありますが、そうではなく、話し合いの可能性が残っているのであれば、まずは普通郵便の形で交渉を持ちかける方がよいでしょう。

実際、相続人の間では話合いをする土壌が十分あったにもかかわらず、弁護士が内容証明郵便を送ったことで関係が悪くなってしまい、結局遺産分割調停・審判にまで至ったという事例を聞いたことがあります。弁護士が紛争をこじらせてしまうという事態は極力避けなければなりません。

 

 まとめ

内容証明郵便は便利ですし効果的ではあるのですが、その分副作用も大きいので、使いどころを十分考えなければなりません。

まとめると、内容証明郵便を使うべき場合としては、

・相手方との対立関係がはっきりしている

・時効期限が迫っている等で、期限内に権利行使したことを証拠化する必要がある

というケースでしょう。

他方、

・対立関係を前提としておらず円滑な協議の可能性が十分ある場合

には内容証明を使用することでかえってこじらせてしまう危険があるので、使用しない方が望ましいでしょう。

*1:民法1042条