若手弁護士の情報法ブログ

某都市圏で開業している若手弁護士が日々の業務やニュースで感じたこと、業務において役に立つ書籍の紹介等を記していきます。情報法・パーソナルデータ関係の投稿が多いです。

情報法関係で参考になった論文

 

板倉陽一郎「プライバシーに関する契約についての考察」

(1)http://alis.or.jp/img/issn2432-9649_vol1_p028.pdf

(2)http://alis.or.jp/img/issn2432-9649_vol2_p067.pdf

 

プライバシーポリシーや利用規約の法的性質を掘り下げて分析。個人情報保護法上の(公法的な)同意と、プライバシー侵害を理由とする損害請求・差止請求不行使の同意とに区別し、後者の場合には同意があっても無際限に免責されるわけではなく場合によっては無効となる可能性があると指摘。プライバシーに関する契約をこれだけ深く分析する板倉先生の緻密さに脱帽です。(3)はまだ公刊されていないようですが、読むのが待ち遠しいです。

 

 

加藤隆之「個人情報保護制度の遵守とプライヴァシー権侵害 : 個人情報の第三者提供に関する判例を中心として」

https://ci.nii.ac.jp/els/contents110008585237.pdf?id=ART0009715011

 

個人情報保護上違反の有無と、プライバシー侵害の有無を区別する峻別論が一般的な見解であることを前提としつつ、両者が衝突する場合を過去の判例をもとに分析・検討しています。弁護士会照会(いわゆる23条照会)においては、個人情報を開示することは個人情報保護法の関係では許容されうるが、他方で当該情報の主体からプライバシー侵害を理由として照会に応じた企業が損害賠償請求をされる可能性があることの問題点を詳細に指摘。企業側としては制裁が緩い個人情報保護法よりも損害賠償の方を危惧し、結局プライバシー侵害をいわれないために照会には応じないという対応に出るのが自然として、個人情報保護法は有効な行為規範として機能しないのではないかと疑問を投げかけます。パーソナルデータの法的問題を考える上では個人情報保護法だけにとらわれるのではなく、プライバシー侵害の有無も含めてより大きく広い視点で検討しなければならないことを改めて考えさせられました。

 

 

成原慧「情報社会における法とアーキテクチャの関係についての試論的考察」

http://www.iii.u-tokyo.ac.jp/manage/wp-content/uploads/2016/03/20111019-81_5.pdf

 インターネットが高度化した現代では、人々の行為を規律する手段として、「アーキテクチャ」の存在が重要になっています。この論文では、アーキテクチャとは何か、そのメリットと弊害・危険性を法との比較で分かりやすくまとめられています。法とアーキテクチャどちらか一方に偏るのではなく、両方の利点を上手く活かすという視点が重要になると感じました。