若手弁護士の情報法ブログ

某都市圏で開業している若手弁護士が日々の業務やニュースで感じたこと、業務において役に立つ書籍の紹介等を記していきます。情報法・パーソナルデータ関係の投稿が多いです。

今年参考になった情報法関係の書籍の紹介

今年も残すところあとわずかになりました。

 

今年は情報法関係で色々と本を読みましたが、豊作の年で、私自身非常に勉強になりました。

備忘録も兼ねて、今年読んだ情報法関係の書籍でおすすめのものを紹介いたします。

 

 

1.水野祐「法のデザイン」

法のデザイン?創造性とイノベーションは法によって加速する

法のデザイン?創造性とイノベーションは法によって加速する

 

 今をときめく水野先生の書籍です。情報法という範疇にはとどまらない、一種の思想本という評価もできるのですが、現代の高度情報化社会ならではの法の役割を切れ味鋭く論じておられ、私自身何度も目から鱗が落ちました。規制・ブレーキというネガティヴなイメージがつきまとう法を、イノベーションを促進するツールとして再定義し、法のポジティブな側面を生かしていくという本書のスタイルは改めて弁護士としてのあり方を深く考えさせられました。

 

2.松尾陽他「アーキテクチャと法」

アーキテクチャと法―法学のアーキテクチュアルな転回?

アーキテクチャと法―法学のアーキテクチュアルな転回?

 

法以外の 人々の行動を制御・規制する重要なツールであるアーキテクチャに着目して、様々な立場の法学者が掘り下げた考察をしています。人の意識に働きかけない、実効性が高い等、法と異なる機能やメリットもあるものの、使い方次第では自由を侵害する危険性もあるので、法とアーキテクチャの利点をうまく生かして協働していくことの重要さがわかりました。

 

3.林紘一郎「情報法のリーガルマインド」 

情報法のリーガル・マインド

情報法のリーガル・マインド

 

 情報法に関しては、有体物を前提とした法的アプローチではなく、無体物ならではのアプローチをとるべきことが明快に論じられています。

著作権等の知的財産に関してはともすれば、これらの知的財産の保護が原則であり私的利用や引用等の権利制限規定は例外であるという発想になりがちです。しかし、本書は、あくまでも情報の自由な流通が大原則であり、知的財産の法的保護は例外であるという思考枠組みをとっており、衝撃でした。この枠組みで考えると、権利制限規定は例外ではなく、むしろ情報の自由な流通という原則に戻るだけという理解になります。

近時は、権利者サイドから、知的財産が万能であるかのような主張がされることが目につく印象ですが、そのような知的財産権絶対論ではなく、情報の自由な流通とのバランスをとった思考をすることの重要さが理解できました。

 

 4.城田真琴「パーソナルデータの衝撃」

パーソナルデータの衝撃――一生を丸裸にされる「情報経済」が始まった

パーソナルデータの衝撃――一生を丸裸にされる「情報経済」が始まった

 

 法律本ではありませんが、我々の個人情報がいかに大量かつ安易に企業に提供され、広告やマーケティングに利用されているかが豊富な実例を元に記載されており、パーソナルデータの取り扱いに関する意識を高める上で非常に参考になります。今までは、形骸化した同意のもと提供されたパーソナルデータを元に企業が積極的に広告でアプローチする形が主流でしたが、ユーザー側が自身のパーソナルデータを主体的に管理し、自分の信頼できる企業にのみ有用なデータを提供する流れに変わりつつあることも紹介されており、日本でも議論されている情報銀行やデータポータビリティを考える上で参考になります。  

 

5.山本龍彦「プライバシーの権利を考える」

プライバシーの権利を考える

プライバシーの権利を考える

 

 プライバシー研究の第一人者である山本龍彦教授の論文集です。その名の通りプライバシーについてあらゆる角度から徹底的に掘り下げており、どの論考も大変参考になります。プライバシー侵害について、従前は個人の秘密をマスメディア等が暴くという「激痛」アプローチがメインでしたが、近時はそのような瞬間的な侵害ではなく情報管理システムの脆弱性さ・不適切さに伴う(それ自体としては侵害の程度はかならずしも強くはないものの)長期的な侵害である「鈍痛」アプローチで捉えるべきという発想は目から鱗でした。

 

6.福田雅樹他「AIがつなげる社会」

AIがつなげる社会--AIネットワーク時代の法・政策

AIがつなげる社会--AIネットワーク時代の法・政策

 

 AIが高度化・一般化されるに伴い、社会の利益が大きくなる反面、プライバシー侵害等の法的リスクも高まることを踏まえ、来たるAI社会において想定されるリスクや弊害を最小化するためにどのようなアプローチや発想をすべきか、様々な立場の学者や実務家が考察しています。AIが高度化すると、なぜAIがその判断をしたのかすら検証ができなくなる事態が想定されるので、万が一重大な事故が起きた時に備えて透明性を確保できるシステムを構築すべきという発想には大いに共感しました。

 

7.堀部政男「プライバシーバイデザイン」

プライバシー・バイ・デザイン

プライバシー・バイ・デザイン

 

 世界的なトレンドとなっているプライバシーバイデザインの考え方ですが、本書は提唱者であるカブキアン博士の論文の翻訳と、JIPDEC関係者によるプライバシーバイデザインに関する論稿を収録しています。プライバシーバイデザインの7原則については、分かったようでなかなか分からず、具体的にどのように実現していくべきかイメージが持てなかったのですが、プライバシーバイデザインは守るべき法律の条文ではなく企業の信頼性を高めるためのユーザーとのコミュニケーションのツールであるという記述に触れ、ようやく腑に落ちました。正解思考やマニュアル思考ではなく、ユーザーのプライバシーを守るために開発・設計段階からどのように取り組むか創意工夫をすべきことが分かり、参考になりました。

 

 

AIやIoTが進むにつれ、情報法の果たす役割が大事になってくるように思います。来年も引き続き情報法・個人情報保護法制についての勉強をしていきたいと思います。