若手弁護士の情報法ブログ

某都市圏で開業している若手弁護士が日々の業務やニュースで感じたこと、業務において役に立つ書籍の紹介等を記していきます。情報法・パーソナルデータ関係の投稿が多いです。

【書籍紹介】AIがつなげる社会‐AIネットワーク時代の法・政策

 福田雅樹他「AIがつなげる社会‐AIネットワーク自体の法・政策」(弘文堂)

AIがつなげる社会--AIネットワーク時代の法・政策

AIがつなげる社会--AIネットワーク時代の法・政策

 

 AIを取り上げる報道が日常茶飯事になって久しいです。AIについては、生活を便利にして世の中が良くなるという好意的な形で取り上げられることもありますが、一方で人の雇用を奪うというネガティブな論調で語られることもあり、どうしてもイメージ先行で語られがちです。

本書は、AIに精通しているエキスパート達(法学者・弁護士が多いですが、哲学者や情報技術者等も含まれています)がAI時代において予想されるリスクや問題を徹底的にあぶり出し、それに対する対策やアプローチの視点を提供するものです。

 2つの座談会と13の論稿が収録されており、テーマもプライバシー、セキュリティ、知的財産、製造物責任、刑事法、憲法、政治、労働と多岐にわたっており、非常に濃密な内容です。あまりの面白さに2日ほどで読了してしまいました。

 

読んでみて、特に参考になった点は以下です。

 第1に、AIによるプライバシー侵害を防止するための仕組みを整えておく必要性です。AIは大量のデータを収集する関係で、個人の私生活に深く入り込みプライバシーを侵害する危険があります。しかし、プライバシーは侵害されると取り返しがつかないという性質上、損害賠償といった事後的な対応にはなじまず、いかに侵害を防止するかという予防の視点が特に重要です。この点、石井夏生利氏の論稿(「伝統的プライバシー理論へのインパクト」)で紹介されていたプライバシー・バイ・デザインの発想が重要になると思いました。

 第2に、法規制に限らずソフトローを含めた広い意味での法によるルールを定めることの重要性です。法というとどうしても規制、ブレーキといったネガティブな論調で語られがちですが、AIのような複雑・未知な分野については、一定のルールを定めておかなければ、そもそも安心して開発を進めることもできません。この点、第Ⅱ部の座談会(「AI・ロボットの研究開発をめぐる倫理と法」)での高橋恒一氏が発言していた、レーシングカーを具体例として、研究開発の能力と意思がアクセル、資金や開発環境をステアリング、法や倫理をブレーキに例えた説明が非常に分かりやすかったです。

 第3に、事後的な検証可能性を確保する仕組みの重要性です。AIが高度化し、更にはIoTによりあらゆるネットワークと連携すればするほど、当初想定もしていなかった事態が生じるリスクは高まります。自動運転等の人の生命に直結する分野については、万が一事故が起こった際には、なぜAIがそのような判断をしたのかという事故原因を解明できる工夫を開発し設計段階に組み込むことが必要であるという、平野晋氏の指摘(「AIネットワーク時代の製造物責任法」)は大切だと思いました。

 

きたるべきAI時代がどのような社会になるか、もちろん正確な予測はできませんが、AIの有用性を活かしつつもリスクに適正に対処するための視点を持つために本書は必読でしょう。

 

 ※はしがきを見ると、本書の編集は登健太郎氏のようです。氏は「アーキテクチャと法」の編集にも携わっておられます。「アーキテクチャと法」も今後の社会における法の役割を考える上で大変参考になりました。

 

アーキテクチャと法」に関する下記の記事はこちら。

wakateben.hatenablog.com