若手弁護士のつぶやき

某都市圏で開業している若手弁護士が日々の業務やニュースで感じたこと、業務において役に立つ書籍の紹介等を記していきます

【書籍紹介】松尾陽他「アーキテクチャと法」

 

松尾陽他「アーキテクチャと法‐法学のアーキテクチュアルな転回?」(弘文堂) 

アーキテクチャと法―法学のアーキテクチュアルな転回?

アーキテクチャと法―法学のアーキテクチュアルな転回?

 

近時、法学の分野でアーキテクチャという用語が頻繁に用いられてるようになってきています。アーキテクチャとは論者によって定義は異なりますが、本書でははしがきで「人々が行為する物理的な環境を構成し、人々の行動を一定の方向へと誘導する手法」と表現されています。

インターネットの発達に伴い、人々の行動を誘導し、あるいは規制するようなアーキテクチャの構築が比較的容易にできるようになりました。アーキテクチャにはメリットも多いのですが、弊害やデメリットも否定できず、一定の規律が求められているところです。

本書は、そのようなアーキテクチャと法のかかわりに関して、諸分野の法学者による論文や対談をまとめたものです。憲法学、刑法学、民事訴訟法学といった様々な観点から光を当てることで、アーキテクチャの特質、メリット、デメリット、法との異同が浮き彫りになります。

 

どの論稿も面白かったのですが、私が特に興味をひかれたのは第3章の山本龍彦「個人化される環境‐『超個人主義』の逆説?」でした。これは、利用者個々にパーソナライズされたネット環境において自分の趣味・嗜好に沿った商品を選別して勧める形のアーキテクチャは一見個人の自由を尊重しているように思えるものの、実は「過去の自分」から脱却できなくするという点で憲法13条の定める個人の尊重原理を侵害する危険があるという指摘です。そのような視点を持ったことがなかったので目から鱗が落ちました。パーソナライズされることは非常に便利で合理的ではあるのですが、人間としての自律性を奪うことになりかねないということで、その弊害にも十分注意しなければならないと改めて実感しました。

 

最終章の座談会も面白いです。はしがきで「本書は同じ問題関心の論者が同じような方向性の結論を出すといった類の書物ではない」と述べるとおり、法学としてのアーキテクチャ論を積極的に評価する論者だけではなく、別段新しい議論ではないとして鋭く批判する論者もおり、読んでいて退屈しません。

 

パーソナルデータによるプロファイリングが容易にできるようになる現代社会において、アーキテクチャの積極面を活かしつつ消極面をいかに抑えていくかを考えるためにも格好の書籍だと思います。