若手弁護士の情報法ブログ

某都市圏で開業している若手弁護士が日々の業務やニュースで感じたこと、業務において役に立つ書籍の紹介等を記していきます。情報法・パーソナルデータ関係の投稿が多いです。

書籍紹介「建築瑕疵の法律と実務」:法律と建築の基本がわかる

 岩島秀樹他「建築瑕疵の法律と実務」(日本加除出版)

建築瑕疵の法律と実務

建築瑕疵の法律と実務

 

建築瑕疵の訴訟は知財医療過誤、税務等と並ぶ専門訴訟です。建築瑕疵事件のハードルが高い点は、建築請負分野における法律構造や判例理論といった法的問題が複雑であることに加え、「瑕疵」に当たるか否かの判断において建築の専門的知見が必須であることです。つまり、建築瑕疵事件を取り扱う弁護士は、建築に関する専門書を読み込み一級建築士にも相談して方針を立てなければならず、多大や労力や時間がかかります。

特に、建築の素人である弁護士にとって難しいのは、問題となっている工事の内容が通常の水準から逸脱しているのか否かの判断です。これは建築の専門家でないと相場観も含めて分かりません。

本書は、弁護士と建築士による共同執筆という形で、建築瑕疵事件においてよく問題となる工事類型ごとに、標準的な施工方法と裁判例に照らして瑕疵となるケースをまとめたものです。これを読むことで自分が取り扱う案件の工事内容が標準的だったのかどうかある程度の見通しを立てることができ、建築士と協議をする際にも十分な予備知識を得ることができるでしょう。もちろん、訴訟をするにあたってはより専門的な文献にもあたる必要があるでしょうが、最初の見通しを立てる上のガイドとして最適です。

 

建築瑕疵事件を取り扱う際の必携書といえるでしょう。

 

膨大な資料を整理するコツ

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仕事の上で膨大な資料を読む必要が生じることはよくあります。例えば交通事故や医療過誤事件におけるカルテでは、入通院歴が長くなると1000頁を超えることも珍しくありません。また、控訴審から受任する場合には当然一審の記録が前提となっており、一審判決のみならず準備書面や証拠、尋問調書を含めると相当な分量になります。

この膨大な資料の中から依頼者にとって有利な証拠となる部分を見つけ出す作業をしていくことになります。そのためには資料のどこに何が書いているかを整理してまとめることが必要となります。

この整理において最も重要なポイントは、資料の最初から最後まで全てページ番号をつけることだと考えています。

当然重要な箇所には付箋をつけますが、付箋が多くなるとかえって見づらいですし、付箋が剥がれることもあり得ます。

ページ番号をつけると「この記載は〇頁に書いている」という整理ができ、その記載がある箇所を確実に把握することができるというメリットがあります。

私は、資料の中の重要な部分をピックアップしたものを別途エクセルなどの整理表でまとめ、記載内容と該当するページ番号を一緒につけています。これにより、かなり作業は効率化されます。

 膨大な資料を整理するときにページ番号をつけるという方法は、単純なようですが思っている以上に作業がはかどりますので、是非お試しすることをお勧めします。

書籍紹介「企業労働法実務入門」:使用者側からの労働法の使い方のイロハが分かる

倉重公太朗他「企業労働法実務入門」(日本リーダーズ協会) 

企業労働法実務入門―はじめての人事労務担当者からエキスパートへ

企業労働法実務入門―はじめての人事労務担当者からエキスパートへ

 

主に企業側からの視点から、労働法は何のためにあるのか、どのような場面で使うのかを解説した本です。入門と書かれているとおり、難解な説明は極力省いており、労働法に関するテーマについて満遍なく平易に解説されています。また法律の解説だけではなく、人事組織マネジメントの基礎や社会保険・労働保険の基礎の説明もあり、これを読めば、企業側から見た人事労務の基礎を一通り学ぶことができます。

消費者事件を取り扱う際のお勧めの書籍

弁護士の業務の中で、消費者事件を扱うことはよくあります。しかし、消費者事件は分野も幅広く、特別法も複雑で処理に苦労することも少なくありません。

そこで、消費者事件を取り扱う際に手元に置いておくと便利な書籍を紹介します。

 

目次

日本弁護士連合会「消費者法講義」  

消費者法講義〔第4版〕

消費者法講義〔第4版〕

 

消費者法の全般的な理解をするための入門といえばこの一冊です。各分野について難しすぎない範囲でまとめられています。

 

 

圓山茂夫「特定商取引法の理論と実務」 

詳解 特定商取引法の理論と実務

詳解 特定商取引法の理論と実務

 

特商法の詳しい解説といえばこの本は外せません。非常に分厚くとても通読はできませんが、特商法の条文を消費者側に有利に活用する方法が具体的に書かれているので、訴訟や交渉において大いに役立ちます。

 

 

村千鶴子「誌上法学講座‐特定商取引法を学ぶ」 

誌上法学講座―特定商取引法を学ぶ

誌上法学講座―特定商取引法を学ぶ

 

 特商法は非常に重要な法律ではあるのですが、条文の文言が非常に長く難解で、条文だけ読んでもその意味を十分理解することは困難です。この本は特商法の全体像と各類型の典型例を極めてコンパクトに分かりやすく解説してくれているので、特商法のイメージを持つには最適です。

 

 

村千鶴子「誌上法学講座‐割賦販売法を学ぶ」

誌上法学講座―割賦販売法を学ぶ

誌上法学講座―割賦販売法を学ぶ

 

上記の書籍の姉妹本で、割賦販売法についてです。 消費者事件においては支払不能の抗弁等、割賦販売法の理解も不可欠ですが、この法律も特商法に負けず劣らず難解な構造をしております。この本で全体像をつかむのがいいでしょう。

 

 

福崎博孝「カード被害救済の法理と実務」

カード被害救済の法理と実務

カード被害救済の法理と実務

 

 消費者事件ではカード被害も典型的な類型です。この本ではカード被害に焦点を絞って具体的な処理の方法を詳しく解説しています。

 

 

消費者法の分野では、法改正や重要判例が頻繁に出されるので、上記で挙げた書籍を参照しつつ、常に最新の情報にもあたって知識をアップデートする必要があるでしょう。

書籍紹介「障害年金というヒント」:障害年金のイロハが分かる

中井宏監修「誰も知らない最強の社会保障 障害年金というヒント」(三五館) 

誰も知らない最強の社会保障 障害年金というヒント

誰も知らない最強の社会保障 障害年金というヒント

 

障害年金の内容や申請手続、受給額等の基本について平易に解説している本です(執筆者は殆ど社労士です)。

癌やうつであっても障害年金の受給対象となる可能性があるということを本書を読んで初めて知り、本書が「最強の社会保障」と呼ぶ通り相当有用な制度であることに軽い衝撃を受けました。

弁護士の依頼者の中にも、癌やうつに罹患している方は決して少なくありません。そのような方に対しても、障害年金を使うことで生活を楽にすることができるかもしれないことに気づかせてくれました。

年金というとどうしても社労士の守備範囲で、弁護士にとっては関わりがないと思われがちですが(私自身もそのように思っていました)、依頼者の役に立つという観点からすれば障害年金のことも常に念頭に置かなければならないということですね。

 

年金についての解説本というと難解で読みづらい本をイメージしますが、本書はイラストも豊富に使用して全くの初心者であっても理解しやすい平易な説明をしていますので、障害年金について基本的なイメージを身に付けることができます。

 

 

書籍紹介「実務相続関係訴訟 遺産分割の前提問題等に係る民事訴訟実務マニュアル」:相続事件を扱う際に有用

田村洋三他編「実務相続関係訴訟 遺産分割の前提問題等に係る民事訴訟実務マニュアル」(日本加除出版株式会社)

実務 相続関係訴訟 遺産分割の前提問題等に係る民事訴訟実務マニュアル

実務 相続関係訴訟 遺産分割の前提問題等に係る民事訴訟実務マニュアル

  • 作者: 田村洋三,小圷眞史,北野俊光,雨宮則夫,秋武憲一,浅香紀久雄,松本光一郎
  • 出版社/メーカー: 日本加除出版
  • 発売日: 2016/06/03
  • メディア: 単行本
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 相続が絡む案件は法的に複雑で錯綜しているものが多いです。遺産を誰が取得すべきかという問題は最終的には遺産分割審判で決着がつくことになりますが、その遺産分割に辿りつく以前の段階で激しい争いが生じることも多く、その場合は遺産分割の前に別途訴訟等で処理をしなければなりません。

本書はその遺産分割の前提問題等に関して類型ごとにまとめたものです。遺産分割の前提といってもその種類は多く、紛争の対象も相続人の範囲、遺産の範囲、遺言の効力と様々です。また、遺産分割の「前提」ではありませんが(つまりこの点が確定しなくても遺産分割そのものは可能)、遺産分割と密接な関係があり別途訴訟で解決しなければならない問題として、遺留分減殺、葬儀費用、相続財産の管理費用等が争われるものもあります。

本書は、これらの遺産分割の前提問題等の各類型ごとに、訴訟においてよく見られる請求原因、抗弁、再抗弁という形で整理をしてくれています。そのため、自分が原告側・被告側どちらになった場合でも、自身の主張を認めさせるために必要な主張や要件事実が整理され、また相手方の反論も予想することができます。

 

相続事件においては遺産分割だけでなく、その前提問題等についても対応することが求められます。相続事件を取り扱う際にはとても役立つでしょう。

冤罪を生み出す構造~1つのストーリーに固執することの怖さ~

 こちらの記事が話題になっています。

恐怖!地方の人気アナが窃盗犯にデッチ上げられるまでの一部始終(週刊現代) | 現代ビジネス | 講談社(1/4)

 

事案の概要は、アナウンサーだった方が、銀行を訪れた際に客が置き忘れた現金入りの封筒の中から現金を盗んだという窃盗の嫌疑で逮捕・勾留され、一審・二審とも有罪判決が下ったものの、最高裁で逆転無罪判決となったものです。

この記事の中では、自白を強要される、捜査機関側のストーリーがあらかじめ決まっておりいくら弁解しても全く聞き入れられない等の話が出ています。

 

私は刑事弁護専門というほどではありませんが、常時刑事弁護案件を抱えており、冤罪が疑われる事件にも携わったことがあります。その経験の中で感じたことというと、冤罪事件においては、警察・検察がいったん決めたストーリーで間違いないとして突っ走り、そのストーリーと整合しない事実や証拠は無視するという傾向があるように思います。

もちろん、捜査の道筋を決めるためには一定のストーリーを立てる必要があるのでストーリーを作ること自体が悪いわけではありません。ただ、そのストーリーはあくまでも仮説であり、新たな証拠によって修正あるいは変更されるべきものですし、場合によっては複数のストーリーも立てておくべきです。しかし、そのような柔軟な軌道修正をすることなく最初に立てたストーリーに固執し、そのストーリーに都合のよい証拠だけを選別し、都合の悪い証拠を無視する場合に冤罪が引き起こされることになります。

 

刑事事件に限ったことではありませんが、最初の見立ては常に変動し得るものであることを認識し、情勢の変化により臨機応変に軌道修正をするという柔軟な考えをもって対応することが重要であると改めて感じます。