若手弁護士のつぶやき

某都市圏で開業している若手弁護士が日々の業務やニュースで感じたこと、業務において役に立つ書籍の紹介等を記していきます

冤罪を生み出す構造~1つのストーリーに固執することの怖さ~

 こちらの記事が話題になっています。

恐怖!地方の人気アナが窃盗犯にデッチ上げられるまでの一部始終(週刊現代) | 現代ビジネス | 講談社(1/4)

 

事案の概要は、アナウンサーだった方が、銀行を訪れた際に客が置き忘れた現金入りの封筒の中から現金を盗んだという窃盗の嫌疑で逮捕・勾留され、一審・二審とも有罪判決が下ったものの、最高裁で逆転無罪判決となったものです。

この記事の中では、自白を強要される、捜査機関側のストーリーがあらかじめ決まっておりいくら弁解しても全く聞き入れられない等の話が出ています。

 

私は刑事弁護専門というほどではありませんが、常時刑事弁護案件を抱えており、冤罪が疑われる事件にも携わったことがあります。その経験の中で感じたことというと、冤罪事件においては、警察・検察がいったん決めたストーリーで間違いないとして突っ走り、そのストーリーと整合しない事実や証拠は無視するという傾向があるように思います。

もちろん、捜査の道筋を決めるためには一定のストーリーを立てる必要があるのでストーリーを作ること自体が悪いわけではありません。ただ、そのストーリーはあくまでも仮説であり、新たな証拠によって修正あるいは変更されるべきものですし、場合によっては複数のストーリーも立てておくべきです。しかし、そのような柔軟な軌道修正をすることなく最初に立てたストーリーに固執し、そのストーリーに都合のよい証拠だけを選別し、都合の悪い証拠を無視する場合に冤罪が引き起こされることになります。

 

刑事事件に限ったことではありませんが、最初の見立ては常に変動し得るものであることを認識し、情勢の変化により臨機応変に軌道修正をするという柔軟な考えをもって対応することが重要であると改めて感じます。

書籍紹介 「文書提出命令の理論と実務」:文書提出命令に関する書籍の決定版

山本和彦他編集「文書提出命令の理論と実務」(民事法研究会)

文書提出命令の理論と実務

文書提出命令の理論と実務

 

学者、弁護士、裁判官らの共著です。文書提出命令の理論面や判例準則といった一般論の説明はもちろん、各訴訟類型や文書の種類についても判例を踏まえた詳しい解説がされています。特に訴訟類型は、文書提出命令が問題となりやすい知的財産訴訟、医療訴訟、労働訴訟、交通事故訴訟、租税訴訟に分けて説明がされています。

巻末に文書提出命令に関する裁判例が一覧としてまとめられており(収録数は第2版では155件)、関連する裁判例を調べたいときに非常に便利です。

 

文書提出命令に関して必要な情報はほぼ網羅されているといえます。この種の事件を取り扱う際の必携書でしょう。

 

書籍紹介 「弁護士が悩む不動産に関する法律相談」:不動産専門弁護士の処理の仕方を学べる

第一東京弁護士会法律相談運営委員会「実例弁護士が悩む不動産に関する法律相談」(日本加除出版) 

実例 弁護士が悩む不動産に関する法律相談―専門弁護士による実践的解決のノウハウ

実例 弁護士が悩む不動産に関する法律相談―専門弁護士による実践的解決のノウハウ

 

不動産に関する事件を多く取り合っている弁護士が経験した、売買、賃貸借、倒産処理、不動産執行、境界、相続等の様々な分野に関する事件の処理の仕方が書かれています。

時系列に沿って受任時から事件解決までの流れが簡潔にまとめられているので、それを追体験することで、同様の事案を受任した際にどのように対応すればよいかがイメージできます。執筆者らによる座談会も収録されており、不動産の事件に精通した弁護士がどのような考えで業務を行っているかを知ることができる点でも有益です。

不動産の事案を取り扱う際には大いに参考になるでしょう。

良い弁護士か否かを見極めるコツ

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弁護士を探しているという方から、「どうやったら良い弁護士を見つけることができますか」という質問を受けることがよくあります。

良い弁護士といっても確立した定義はなく、人によって様々な考え方があるでしょうが、私なりに考えると、良い弁護士とそうでない弁護士を見極めるコツが2つあります。

 

1つ目は、事件の終結までの見通しや選択肢を丁寧に示してくれるか否かです。弁護士に依頼する案件というのは複雑で入り組んだ内容のものが殆どで、こちらの出方や相手方の対応によって無数の方向性がありえます。そこで、今後どのような進展をして、こちらがどのような選択肢があり、そのうちこの選択肢を選ぶとどのような展開となり、最終的にどのような決着がつくかという最初から最後までをイメージできるような説明ができる弁護士が良いです。これを説明できるということは、当該事案を処理するだけの基本的な知識・経験があり、また1つの方法に固執するのではなく複数の選択肢を常に検討しているということなので、慎重な対応が期待できます。

 

2つ目は、依頼者にとって有利なことばかりではなく、不利な点も説明してくれるか否かです。ワラをもすがる思いの依頼者にとっては、自分に有利なことだけ説明して安心させてほしいという気持ちは当然あるでしょう。しかし、法律紛争において当事者の一方だけに全面的に落ち度があるというケースはまずありません。当事者双方にそれぞれ有利な点、不利な点があり、いかに有利な点を活かし、不利な点を守り切るかが重要になってきます。そのためには、不利なこともきちんと説明してくれる弁護士は信頼できる可能性が高いです(稀ですが、事件を受任したいために不利な点があると分かっていながらも有利なことだけ説明する悪質な弁護士もいます)。

 

相談した弁護士が信用できるかどうか、上記の視点を参考にして検討してはいかがでしょうか。

書籍紹介 大野潔「企業法務に携わる弁護士が最初に読む本」

 

競争社会到来!企業法務に携わる弁護士が最初に読む本

競争社会到来!企業法務に携わる弁護士が最初に読む本

 

 企業法務に関して多くの弁護士と接してきた著者(現在はコンサルティング会社を経営)が、弁護士の顧客に対するアプローチや営業の仕方に対してもっと改善する余地があると考えて、それを実現するためのノウハウを提供しています。

 

私が読んで特に参考になったのが以下の提案です。

 ・長文のメールは極力避け、先に結論を書き、リスクを提示する際にはリスクを極小化する方向についても書くこと

・会議を実施するときは法律事務所でではなく、弁護士の方が顧客のオフィスまで出向く

・顧客の業務に関連する法律改正や判決といったニュースを定期的に情報提供する。その際も大論文にはせず簡単な説明にすること

・顧客の方で論点を明示的に依頼されるより前の段階、すなわち何が論点なのかすら整理できていないという川上の状態から積極的に情報提供をして問題点を探ること

 

どれも顧客の立場からすれば当たり前のようですが、普段業務をしている中でつい忘れてしまいがちです。顧客目線で対応することの重要さに改めて気づかされました。供給過剰と言われて久しい弁護士業界でもまだまだ改善の余地があるということですね。

顧客満足のためにどのような工夫ができるだろうかを考えるきっかけを与えてくれた良い本です。

内容証明郵便を使うか否かの判断基準

 

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弁護士が依頼者の代理人として相手方と交渉を開始する場合、受任通知を兼ねて当方の要求をまとめた文書を内容証明郵便で送ることが多いです。内容証明郵便にはメリットもあるのですが、万能ではなくこれを使うことでかえってマイナスとなる場合もあります。そこで、内容証明郵便を使用すべきか否かの判断基準をお伝えします。 

内容証明郵便のメリット

 その文書を送ったことを確実に証拠化できる

 内容証明郵便は、その名のとおり、その「内容」の文書を送ったことを「証明」する文書です。相手方の「そんな文書は受け取っていない」との反論を封じることができ、文書を送ったか否かという争いを回避できます。

 特に、法律上、一定期間内に権利行使をすることが求められている場合、内容証明郵便を使用することで、期限内に請求をしたことを証明できます(例えば、遺留分減殺請求権は相続開始を知ったときから1年以内に権利行使をしなければなりませんので*1その期間満了前に内容証明郵便にて権利行使の意思表示をします)。

 

こちらの本気を示すことができる 

内容証明郵便を受け取ることは滅多にあるものではありません。内容証明郵便は体裁も通常の郵便と異なっており、こちらが本気で要求していることを示して相手方にプレッシャーを与えるという効果が期待できます。

 

内容証明を使うことがかえってマイナスとなる場合

このように内容証明郵便にはメリットがあるのですが、その裏返しとして、このメリットがかえってデメリットとなる場合があり得ます。

つまり、内容証明を出すということは、いわばファイティングポーズをとることであり、少なくとも受け取った方はこちらが喧嘩を仕掛けたものと認識することが殆どです。となると、対立状態を前提とせず円滑な話し合いをすることを想定している場合には、内容証明郵便を使用してしまうと相手方の態度が硬化し、話合いのテーブルにすら乗ってくれなくなる危険があります。

例えば、相続人の1名の代理人として、他の相続人との間で遺産分割協議を行おうとする場合を想定します。他の相続人との関係が極めて悪く話合いの余地がないことが最初から分かっている場合であれば、内容証明を使うこともありますが、そうではなく、話し合いの可能性が残っているのであれば、まずは普通郵便の形で交渉を持ちかける方がよいでしょう。

実際、相続人の間では話合いをする土壌が十分あったにもかかわらず、弁護士が内容証明郵便を送ったことで関係が悪くなってしまい、結局遺産分割調停・審判にまで至ったという事例を聞いたことがあります。弁護士が紛争をこじらせてしまうという事態は極力避けなければなりません。

 

 まとめ

内容証明郵便は便利ですし効果的ではあるのですが、その分副作用も大きいので、使いどころを十分考えなければなりません。

まとめると、内容証明郵便を使うべき場合としては、

・相手方との対立関係がはっきりしている

・時効期限が迫っている等で、期限内に権利行使したことを証拠化する必要がある

というケースでしょう。

他方、

・対立関係を前提としておらず円滑な協議の可能性が十分ある場合

には内容証明を使用することでかえってこじらせてしまう危険があるので、使用しない方が望ましいでしょう。

*1:民法1042条

書籍紹介 「弁護士専門研修講座 中小企業法務の実務」

 「弁護士専門研修講座 中小企業法務の実務」 

 

弁護士専門研修講座 中小企業法務の実務

弁護士専門研修講座 中小企業法務の実務

 

 

支配権争い、M&A、事業承継、ベンチャー企業支援といった中小企業の経営に深く関わる法務について、専門弁護士による講演録という形で詳しく解説しています。

 

実務上どのように対応・処理していくのかという点がかなり具体的に踏み込んで紹介されており、専門弁護士のノウハウが凝縮されています。

 

中心企業法務に携わる際に最初に読んでおくべき本といえます。