若手弁護士の情報法ブログ

某都市圏で開業している若手弁護士が日々の業務やニュースで感じたこと、業務において役に立つ書籍の紹介等を記していきます。情報法・パーソナルデータ関係の投稿が多いです。

良い弁護士か否かを見極めるコツ

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弁護士を探しているという方から、「どうやったら良い弁護士を見つけることができますか」という質問を受けることがよくあります。

良い弁護士といっても確立した定義はなく、人によって様々な考え方があるでしょうが、私なりに考えると、良い弁護士とそうでない弁護士を見極めるコツが2つあります。

 

1つ目は、事件の終結までの見通しや選択肢を丁寧に示してくれるか否かです。弁護士に依頼する案件というのは複雑で入り組んだ内容のものが殆どで、こちらの出方や相手方の対応によって無数の方向性がありえます。そこで、今後どのような進展をして、こちらがどのような選択肢があり、そのうちこの選択肢を選ぶとどのような展開となり、最終的にどのような決着がつくかという最初から最後までをイメージできるような説明ができる弁護士が良いです。これを説明できるということは、当該事案を処理するだけの基本的な知識・経験があり、また1つの方法に固執するのではなく複数の選択肢を常に検討しているということなので、慎重な対応が期待できます。

 

2つ目は、依頼者にとって有利なことばかりではなく、不利な点も説明してくれるか否かです。ワラをもすがる思いの依頼者にとっては、自分に有利なことだけ説明して安心させてほしいという気持ちは当然あるでしょう。しかし、法律紛争において当事者の一方だけに全面的に落ち度があるというケースはまずありません。当事者双方にそれぞれ有利な点、不利な点があり、いかに有利な点を活かし、不利な点を守り切るかが重要になってきます。そのためには、不利なこともきちんと説明してくれる弁護士は信頼できる可能性が高いです(稀ですが、事件を受任したいために不利な点があると分かっていながらも有利なことだけ説明する悪質な弁護士もいます)。

 

相談した弁護士が信用できるかどうか、上記の視点を参考にして検討してはいかがでしょうか。

書籍紹介 大野潔「企業法務に携わる弁護士が最初に読む本」

 

競争社会到来!企業法務に携わる弁護士が最初に読む本

競争社会到来!企業法務に携わる弁護士が最初に読む本

 

 企業法務に関して多くの弁護士と接してきた著者(現在はコンサルティング会社を経営)が、弁護士の顧客に対するアプローチや営業の仕方に対してもっと改善する余地があると考えて、それを実現するためのノウハウを提供しています。

 

私が読んで特に参考になったのが以下の提案です。

 ・長文のメールは極力避け、先に結論を書き、リスクを提示する際にはリスクを極小化する方向についても書くこと

・会議を実施するときは法律事務所でではなく、弁護士の方が顧客のオフィスまで出向く

・顧客の業務に関連する法律改正や判決といったニュースを定期的に情報提供する。その際も大論文にはせず簡単な説明にすること

・顧客の方で論点を明示的に依頼されるより前の段階、すなわち何が論点なのかすら整理できていないという川上の状態から積極的に情報提供をして問題点を探ること

 

どれも顧客の立場からすれば当たり前のようですが、普段業務をしている中でつい忘れてしまいがちです。顧客目線で対応することの重要さに改めて気づかされました。供給過剰と言われて久しい弁護士業界でもまだまだ改善の余地があるということですね。

顧客満足のためにどのような工夫ができるだろうかを考えるきっかけを与えてくれた良い本です。

内容証明郵便を使うか否かの判断基準

 

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弁護士が依頼者の代理人として相手方と交渉を開始する場合、受任通知を兼ねて当方の要求をまとめた文書を内容証明郵便で送ることが多いです。内容証明郵便にはメリットもあるのですが、万能ではなくこれを使うことでかえってマイナスとなる場合もあります。そこで、内容証明郵便を使用すべきか否かの判断基準をお伝えします。 

内容証明郵便のメリット

 その文書を送ったことを確実に証拠化できる

 内容証明郵便は、その名のとおり、その「内容」の文書を送ったことを「証明」する文書です。相手方の「そんな文書は受け取っていない」との反論を封じることができ、文書を送ったか否かという争いを回避できます。

 特に、法律上、一定期間内に権利行使をすることが求められている場合、内容証明郵便を使用することで、期限内に請求をしたことを証明できます(例えば、遺留分減殺請求権は相続開始を知ったときから1年以内に権利行使をしなければなりませんので*1その期間満了前に内容証明郵便にて権利行使の意思表示をします)。

 

こちらの本気を示すことができる 

内容証明郵便を受け取ることは滅多にあるものではありません。内容証明郵便は体裁も通常の郵便と異なっており、こちらが本気で要求していることを示して相手方にプレッシャーを与えるという効果が期待できます。

 

内容証明を使うことがかえってマイナスとなる場合

このように内容証明郵便にはメリットがあるのですが、その裏返しとして、このメリットがかえってデメリットとなる場合があり得ます。

つまり、内容証明を出すということは、いわばファイティングポーズをとることであり、少なくとも受け取った方はこちらが喧嘩を仕掛けたものと認識することが殆どです。となると、対立状態を前提とせず円滑な話し合いをすることを想定している場合には、内容証明郵便を使用してしまうと相手方の態度が硬化し、話合いのテーブルにすら乗ってくれなくなる危険があります。

例えば、相続人の1名の代理人として、他の相続人との間で遺産分割協議を行おうとする場合を想定します。他の相続人との関係が極めて悪く話合いの余地がないことが最初から分かっている場合であれば、内容証明を使うこともありますが、そうではなく、話し合いの可能性が残っているのであれば、まずは普通郵便の形で交渉を持ちかける方がよいでしょう。

実際、相続人の間では話合いをする土壌が十分あったにもかかわらず、弁護士が内容証明郵便を送ったことで関係が悪くなってしまい、結局遺産分割調停・審判にまで至ったという事例を聞いたことがあります。弁護士が紛争をこじらせてしまうという事態は極力避けなければなりません。

 

 まとめ

内容証明郵便は便利ですし効果的ではあるのですが、その分副作用も大きいので、使いどころを十分考えなければなりません。

まとめると、内容証明郵便を使うべき場合としては、

・相手方との対立関係がはっきりしている

・時効期限が迫っている等で、期限内に権利行使したことを証拠化する必要がある

というケースでしょう。

他方、

・対立関係を前提としておらず円滑な協議の可能性が十分ある場合

には内容証明を使用することでかえってこじらせてしまう危険があるので、使用しない方が望ましいでしょう。

*1:民法1042条

書籍紹介 「弁護士専門研修講座 中小企業法務の実務」

 「弁護士専門研修講座 中小企業法務の実務」 

 

弁護士専門研修講座 中小企業法務の実務

弁護士専門研修講座 中小企業法務の実務

 

 

支配権争い、M&A、事業承継、ベンチャー企業支援といった中小企業の経営に深く関わる法務について、専門弁護士による講演録という形で詳しく解説しています。

 

実務上どのように対応・処理していくのかという点がかなり具体的に踏み込んで紹介されており、専門弁護士のノウハウが凝縮されています。

 

中心企業法務に携わる際に最初に読んでおくべき本といえます。

書籍紹介 「実務解説遺言執行」:遺言執行をする際の必携書

NPO法人遺言・相続リーガルネットワーク編著「実務解説 遺言執行」(日本加除出版)

実務解説 遺言執行

実務解説 遺言執行

 

 遺言執行者としての職務を解説している本です。

遺言執行者は責任が重大であり、懲戒事例も多いだけに弁護士としては相当慎重に進めていかなければなりません。

この本は、遺言執行者に就職する以前の遺言書の有効性の判断方法の解説にはじまり、就職から職務終了まで具体的にどのように職務を進めていけばよいのかを時系列に沿って丁寧かつ分かりやすく解説してくれています。

遺言の類型ごとに遺言執行者が当事者適格を有する場合と有しない場合のまとめや、遺言執行者として職務をした際の懲戒事例も掲載しており、痒い所に手が届く内容です。

 

遺言執行者として職務を進めていく際の必携書といえます。

書籍紹介 弁護士の周辺学:弁護士業務に役立つ隣接分野の解説書

高中俊彦他「弁護士の周辺学」(ぎょうせい)

弁護士の周辺学 実務のための税務・会計・登記・戸籍の基礎知識 (東弁協叢書)

弁護士の周辺学 実務のための税務・会計・登記・戸籍の基礎知識 (東弁協叢書)

  • 作者: ?中正彦,市川充,堀川裕美,西田弥代,関理秀
  • 出版社/メーカー: ぎょうせい
  • 発売日: 2015/08/28
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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 弁護士として仕事していく中で、司法試験で学んだ法律以外の他分野の知識が必要なことはままあります。

  例えば、登記の読み方が分からなければ不動産の事件を扱うことはできませんし、企業法務や法人破産を扱う際に決算書を読むことができるスキルは必須です。

 

本書では、税務、会計、登記、戸籍といった弁護士業務において欠かすことができない隣接分野の知識やノウハウを分かりやすく解説してくれています。

 

どちらかというと新人向けだと思いますが、ある程度経験のある弁護士にとっても、知識を体系的に整理するためにも有用でしょう。

新人のときにこんな本が欲しかったです!

 

書籍紹介 「平成27年度研修版 現代法律実務の諸問題」

 日本弁護士連合会「日弁連研修業書 現代法律実務の諸問題<平成27年度研修版>」

日弁連研修叢書 現代法律実務の諸問題<平成27年度研修版>

日弁連研修叢書 現代法律実務の諸問題<平成27年度研修版>

 

 弁護士会がその年に実施した夏期研修で実施した各研修の講演録やレジュメ・資料をまとめた本です。

この平成27年度版で私が特に参考になったと感じたのが、藤田晶子弁護士による「商標法に関する実務上の留意点」と、山田知司裁判官による「控訴審の審理と主張立証のあり方」です。

特に後者については、講演の内容もさることながら、巻末に控訴の趣意の正しい記載の仕方についてまとめた図表も添付されています。これは、全部棄却の場合、一部認容の場合、原告複数で特定の原告のみ控訴した場合などの様々なパターンごとに、控訴の趣旨の記載でありがちな間違いも併記して正しい記載を書いてくれています。控訴は判決送達後翌日から2週間以内に提起しなければならず、スケジュール的にタイトであることから、このような記載の仕方を図示してくれるのは非常にありがたく、控訴する際には重宝することになるでしょう。